オムレツ争奪戦
三人分の簡単な朝食を作って、食卓を囲む。たったそれだけの事なのだが、僕はこの異世界に来てから、この時間がとても楽しみになっている。前世では目覚めたら即出勤だったため、朝食はいつもゼリーだとかコンビニのおにぎりだとかそんなものばかりだったのだ。ゆっくりと時間に追われず朝食を食べることの出来る尊さよ。
「悠里さん、お料理上手なんですね……」
ニクスが次から次へと口に詰め込みながら言う。
「こら、ニクス。ユーリの食事が食べられるのは従魔にした僕のおかげだぞ。だからそのオムレツを僕に譲れ」
「ダメです。これは私の最後のお楽しみなんですから!」
この世界にも、前世と同じように卵やパンが売っていて助かった。ただパンを焼いてオムレツを作るだけで僕は「料理上手」らしい。まあ、エルナはあの食料庫を見る限り、まともな食事をしてこなかったのは確かだ。ニクスは元神様であることを考えると……神様ってご飯食べるのか?
「あ、エルナさん!ダメですよ、私のオムレツなんだから!」
「バカめ、油断するのが悪いんだ!オムレツはもらったぞ!」
これほどまでに二人が真剣に取り合いを始めるなんて思いもしなかった。正直予想外だ。
「くっ、こうなったら奥の手です!」
オムレツを強奪されたニクスは、そう言って僕のオムレツを強奪した。呆気にとられている僕を尻目に、彼女は満足そうにオムレツを頬張る。
「おい……」
「バカだな、ユーリ。我が家では食事の時でも油断することは許されないんだぞ?」
「お前ら、明日から飯抜きな」
「「えええええええええええ!?」」
二人の騒がしさに、のんびりするはずだった時間も、僕の朝食もかき消されてしまった。前世と変わらない慌ただしさに息が詰まりそうになりながらも、手に持っていたパンの一かけと、フォークに刺さっていたオムレツの一かけだけは辛うじて口に入れることが出来た。
次からは一人で食べよう。僕は心に固く誓った。
―――――
「さて。じゃあ、今日も借金返済のために頑張るとしますか……」
「悠里さん、私も手伝いますよ!」
朝食を終えて、席を立つ。向かう先はもちろん冒険者ギルドだ。念願のスローライフは、自分の手で引き寄せなければならない。例え、エルナやニクスのような障害が立ちはだかろうとも!
「待て、ユーリ。手紙が来ているぞ」
居間を出て行こうとした僕らにエルナが一通の手紙を取り出した。真っ白な封筒には僕の名前以外は差出人の名前すら書かれていない。誰だろうか。手紙でやりとりするような間柄の人間はいないはずだが……。
気になって、その場で封を開く。
「……何だコレ?」
僕は思わず、声に出して呟いた。手紙にはたった一言しか書かれていなかった。
「―――お前を見ている」。
新手のホラーか?全く身に覚えが無い、と言いたいところだが、ニクスの話を聞いた後では身に覚えがありまくりなのだ。
「なんだ、どんな手紙なんだ?」
「だ、大丈夫だ。ただのイタズラだよ。ほら、この間一緒にクエストに行った冒険者の奴がイタズラ好きでさ。ソイツの仕業さ。……多分きっと」
「ふぅん。そうか……それならいいが」
納得いっていない様子のエルナには聞こえないよう、ニクスが僕にそっと耳打ちする。
「―――外で話しましょうか?」
本日も遅めの更新です。申し訳ありません。
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