見た目は少女で力はゴ○ラ
寝汗がパジャマをじっとりと濡らしている。額に流れる汗を袖口で乱暴に拭って、部屋の隅に置かれた姿見で自分の姿を見つめる。
……うん。僕の姿は彼女をまんま幼くしたような見た目だ。
僕が夢の中で辿っていた記憶は僕の首から下のものであった。身体の一部どころではない、彼女は僕そのものだったのだ。ついでにニクスの名付け親が自分であることも知ってしまった。やっぱり偽名じゃねえか。
同じ「美作悠里」という人間でありながら、かたや魔王の片腕として栄達の道を歩み、かたや中二病の死霊使いの従魔として借金返済のために奔走する日々を歩んでいる。一体、どこでこれほどまでに差がついたのだろうか?考えれば考えるほど気分が落ち込んでくる。
「……水でも飲んでこよう」
まだ陽も昇っていない時刻だ。水でも飲んで、もう一眠りしてしまおう。そう思ってベッドから出ようと布団を捲った。
「……んん?」
思わず自分の目を疑った。まくり上げた布団から出ている自分の足がやけに長いのだ。だが、目を擦ってよくよく見ると、それは自分の足では無い事に気がつく。考えてみると腰の辺りがやけに重く熱を持っている。誰かが僕にしがみついているのだ。先ほど拭ったばかりの汗が再び噴き出してきた。
「だ、大丈夫だ……。怖くない、怖くないぞ……」
自分に必死に言い聞かせて、素早く目線を落とす。
「……お前、何やってんの?」
僕の腰にしがみついていたのは、ニクスであった。彼女はいつの間にか自分にあてがわれた部屋を抜け出して、僕のベッドに入り込んでいたのだ。
「悠里さん、寒いんで布団返してください……」
「ふざけんな、自分の部屋に戻れ」
「私の部屋、隙間風が吹いて寒いんですよ……。悠里さんの部屋の方が暖かいです。こうして抱きついていればより一層、温かくていい気持ちですし……」
そう言って、彼女は腕の力を強めた。見た目は少女でも、腕力はゴ○ラみたいだ。僕のあばらがミシミシと音を立てている。
「わ、分かった分かったから、もうちょっと力を緩めてくれ……」
「神様に抗おうなんて百年早いですよ……。罰としてこのまま寝ます」
何の罰だよ。思っている間にも、彼女の腕力で僕もベッドに戻されてしまう。夜も明けきらない内からなぜこんなに疲れなくちゃいけないのだろうか。これで僕がもし男のままであったなら、とんでもないご褒美だったのにな。
僕は諦めて、目を閉じた。意外にも眠りはあっさりと僕の意識を奪ってくれた。
―――――
「お前たち、朝から騒がしかったな。何していたんだ?」
エルナが朝から訝しそうな目つきで言った。
「……ベツニナニモナカッタヨ?」
「ユーリ……どうして片言なんだ?」
僕の顔には大きな痣が出来ている。目を覚ましたニクスが、自分のベッドに僕が入り込んだのだと勘違いして、僕を全力で殴ったのだ。
「ニクス……君は何か知っているんじゃ無いのか?」
「……ナニモアリマセンデシタヨ?」
彼女もばつが悪そうな表情で紅茶を啜っている。まあ、当然の話なのだが。
「お前たち……一体、何したんだ?」
「「ベツニナニモナイヨ?」」
僕らの声は綺麗にシンクロした。ソレを見たエルナも、何かを察したのか「……まあいいよ」とだけ言って、それ以上は追求してこなかった。
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