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例の「アレ」

「「かんぱーい!」」


 ベヒモスを討伐した僕らは、早速受け取った報酬を手に酒場で軽い打ち上げを楽しんでいた。前回はエールの飲み過ぎでとんだ大失敗をしてしまったため、今日の僕は子供でも飲めるリンゴ・ジュースだ。


 彼女はエールを一息に煽って、小さく息を漏らした。


「しかし、妙ですね」

「何が?」


 僕はマンガ肉を頬張りながら、続きを促す。


「ベヒモスは、魔獣の中でも比較的温厚で大人しい魔獣だったはずです。それが人間たちの街のすぐ傍で暴れ回るなんて……」

「僕がサラリーマンだった時にもよくニュースになっていたよ。『熊が民家近くに現れた』ってさ。自分たちの縄張りに餌が無くなると、人里に降りてくることがよくあったんだ。それと同じじゃないの?」

「確かにベヒモスは大食いの魔獣です。その可能性も捨てきれませんが……」


 ニクスはそこで口籠もった。何やら思い当たる節があるのだろう。


「まあ、話は後で聞くよ。今はひとまず、その火鍋を食べたらどうだい?」

「……うん、そうですね。そうします」


 彼女は思い直したように、グラグラと湯気が漏れ出る火鍋の蓋に手をかけた。僕は彼女に気づかれないように、そっと距離を取った。中身はもちろん、僕やガレスが苦戦させられた例の「アレ」だ。


―――――


「魔獣を討伐している最中の発言といい、今回のことといい……悪ふざけが過ぎます!」

「だからって殴らなくたって良いだろ……」


 今度は僕が頭に五重塔を作る番になった。


「この中身が暴れガニだって知っていたら、中身ごと悠里さんにぶつけていましたよ!」


 彼女は怒りながらも、飛び跳ねる暴れガニを器用に捕まえては、その殻を剥がして身を食べ進めていく。


「でも、暴れガニおいしいですね!おかわり!」


 怒るのか食べるのかどちらかにして欲しい。


―――――


「ふぅ。なんだかんだ美味しかったので許します」

「……出来れば殴る前に許して欲しかったね」

「もちろん、次は許しませんよ?」


 彼女は、満足げにもう一杯、エールを煽って大きく息をついた。


「……まあ、おふざけはこの辺りにして、先ほどの話の続きをしましょうか?」


 唐突に見せた真面目な表情に、こちらも否応なしに頷いてしまう。正直、聞きたくないけど。


「私は、魔王もしくは魔王の手先が、あのベヒモスを放ったと考えています」

「それはまたどうして?」



「あなたですよ、悠里さん。あなたが目的なんです」


遅れに遅れた上に短いです。申し訳ありません。

ご意見、感想があれば是非ともお願いします。

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