元神様は手段を選ばない
騒動が明けて、街は復興作業に追われている。主に街中に大巨人を召喚したエルナのせいなのだが、弁償代の請求が屋敷に届いていないところを見ると、今のところ彼女のせいだとバレていないらしい。僕はホッと胸をなで下ろしながらも、後ろを振り返る。
「……なんで屋敷までついてきているんだ?」
「だって、私の役目はあなたを保護することですから」
当たり前のような顔をして、元神様は言った。
「それに今の私は冒険者なんです。毎日の宿代も馬鹿にならないので、この屋敷に泊めてくれれば嬉しいなあ、って……」
神様のくせして随分と俗物的な考え方だ。しかし彼女は天上界という「会社」で働いていたわけだし、神様といえども本当は僕らと変わらない俗物なのかもしれない。
「屋敷に泊まりたければ、屋敷の主の許可を取ってくれ」
「分かりました!では、屋敷の主はどこですか?」
「後ろ」
「えっ?」
元神様が振り向いた先には、鬼のような形相をしたエルナが立っている。ワナワナと震える彼女に気づいているのかいないか、元神様はあっけらかんとした調子で言った。
「あ、あなたがこの屋敷の主ですね?悪いのですが一部屋貸していただきたいのですが……」
「出てけ―――!」
エルナの怒号が屋敷中に響き渡った。
―――――
「アイツは一体何なんだ!僕の大巨人を切ったかと思えば屋敷までついてくるし、挙げ句の果てには『一部屋貸してくれ』だと?非常識極まりない奴だ!」
それはお前もだけどな。
「それにしても、やけに親しげだったじゃないか。君の知り合いなのか?」
「いや、あんな奴は知り合いじゃ無い」
僕はキッパリと言いきった。
「違います!立派な知り合いですよ!ほら、ユーリさん。私たちあんなにも熱い抱擁を交わした仲じゃないですか!」
窓を叩く音がしたかと思えば、元神様は窓にへばりついて必死に呼びかけてくる。彼女は元神様じゃ無くてゴキブリなんじゃないのか?
「……熱い抱擁?」
エルナが訝しげな視線を僕に投げかけてくる。アレは熱い抱擁などでは無く、純粋なバックドロップだ。
「ほら、そこのあなた。噂に名高い『深淵の魔女』でしょう?私、知っていますよ!」
元神様の言葉に、エルナがピクリと反応する。マズい。
「私、あなたのファンなんですよ!いやぁ、嬉しいなー!サイン欲しいなー!」
彼女の方も何だかやけくそになっていないか?だが、彼女の思惑通りなのだろう。エルナはサイン片手に彼女をまんまと屋敷へと引き入れてしまった。
「ユーリ、君も悪い奴だな。彼女が僕のファンだなんて、どうして黙っていたんだ」
先ほどとは打って変わって、満面の笑みを浮かべたエルナが、元神様と一緒に戻ってきた。どうやら、しばらくは一緒にいるハメになりそうだ。




