従魔の正体
前の話が短かったので、今日はもう一話更新させていただきます。
「……まずは事情を説明させてください」
神様、もとい元神様は言った。彼女の頭には五重塔のようにたんこぶがそびえ立っている。それはもちろん僕が何度もバックドロップを決めたせいなのだが、全く罪悪感が湧いてこない。
「美作悠里さん。最初にあなたに付与した能力なのですが、アレは『不死身の剣聖』ではありません」
「うん。知ってる」
「ああ……そうでしたね。確か、その事を告げた直後に、あなたとの交信が途絶えてしまいましたものね」
そこまではよく覚えている。だが、問題はその先だ。このポンコツが僕に間違って付与してしまった能力とは一体、何なのか。僕は身構えて、元神様の言葉を待つ。
「あなたに付与してしまった能力は……『不死者の騎士』です」
……何それ?「不死者の騎士」です、って言われても「ああ、そうですか」とは絶対にならない。聞きたいのはその先だ。
「それって具体的にはどんな能力なの?」
「具体的に申し上げますと……首と胴が別々になっている魔物―――『デュラハン』になる、という能力です」
デュラハンといえば、漫画やゲームでもよく見かける機会があった。首の無い騎士の姿がほとんどだったな。扱いも死霊だったり、魔物だったり……え、なに?僕はその「デュラハン」なのか?そもそもそれって能力か?
「能力の発動条件は『首を切られて死ぬ』というものなので、そこまでは良かったのですが……」
よくねえよ。なにサラッと凄まじい発動条件言ってんだ。万が一、切られたのが身体だったら、本当に死んでたじゃねえか。
「問題はその後なんです。どうやら、能力を付与する過程で何らかの不備があったみたいで、あなたとあなたの身体がそれぞれ別の意思を持ってしまったみたいなんです」
「……じゃあ、やっぱり」
「はい。あなたの首から下はちゃんと生きていますよ?」
僕は大きく息をついた。どうやら本当に僕の首から下は意思を持って、どこかで生きているようだ。それが分かればまずは一安心だ。
「じゃあ、この身体は一体、なんだ?」
僕は自分の頬を引っ張ってみせる。僕が首無し騎士―――デュラハンであるのならば、僕が女性になっている事と、どう関係があるのだろうか。
「ああ、それは簡単です。デュラハンは女性の魔物なんですよ」
なんとあっさりとした回答か。そんなことで、僕は性別をねじ曲げられてしまったというのか。
「ということは、僕の首から下も……」
「はい、今は女性になっています」
「……マジで?」
「……残念ながらマジです」
僕は言葉を失った。僕が気落ちしているのを敏感に察知したのだろう、元神様は慌てて言った。
「あの、でも異世界に転生する時に『性別を変えさせてくれ!』って注文を出す人がたまにいるんですよ。『魔物になりたい!』とか言う人もいまして……それでこちらとしても少しでも納得のいく転生をしてもらおうと思って、色々とご用意させていただいていたんですよ……」
なんてニッチな要望だ。そんな奴らの要望のせいで、僕はこんな目に遭ったというのか。
「デュラハンもそれなりに需要があったんですよ!?」
「あ、はい……」
天上界はそんな所までカバーする暇があるくらいなら、あの荒野を何とかするべきだっただろう。そうすれば僕はすぐさまスローライフを享受することが出来たのに。
「それで、問題はここからなんです」
まだあるのかよ。僕はもうお腹一杯です。
「実は私、悠里さんの身体と戦ってきたんです」
「お前なにやってんの!?」
「違うんですよ!?はじめはお話しして一緒にあなたを探してくれるかと思っていたんです……」
その言い方だと、僕の首から下はとてもヤバい奴だな……。どうしよう、聞きたくない。
「でも、あなたの身体に拒否されまして、結局、実力行使って事になっちゃいまして」
なっちゃいまして、じゃねえよ。うっかり殺しでもしたらどうするつもりだったんだろうか。
「でも、見事に負けちゃいまして……それで、これでは埒があかないので、ひとまず首の方を探そうと思いまして……」
首の方とは、僕の事だな。言い方は間違ってはいないが、何だか腹が立つ。
「……で、この街まで来ましたら冒険者ギルドで何やら噂を聞いたんです。『声だけで魔獣を倒す少女がいる』と」
「それが僕だとよく分かったな?」
「世界広しといえども、声を媒体にした呪文を使うのは、往々にして死霊系の魔物です。あなたがデュラハンになっていることを考慮すれば、もしやと思って」
なるほど。しかし、僕の首から下は元神様にも競り勝つ実力の持ち主か。
「もしかして、僕の首から下って強いの?」
「ええ、とんでもなく強いです。恐らく、あなたが現状、使用できているのはデュラハンとしての魔術のほんの一部だけです。残りのほとんどは、あなたの身体のものになっていますね」
十全じゃ無い能力で元神様に勝ってしまうなんて、恐ろしい奴だな、僕の首から下。行方が気になっていたが、そんなに恐ろしい奴なら逆に会いたくなくなってきた。
「でも、このままあなたの身体を放置するわけにもいかないんですよ……」
元神様は決まりの悪そうな表情で言った。
「調べたのですが、あなたの身体はどうやら従魔になっているようなんですよ」
「僕と一緒じゃ無いか。それが何か問題なのか?」
「いえ、それ自体は問題ではないのですが……あなたの身体を従魔にしたのは……魔族の長、つまり魔王みたいなんですよ」
……マジ?
デュラハンについては諸説あって、別に絶対に女性というわけではないそうです。
このお話では、便宜上、女性ということにさせていただきました。
よろしくお願いします。




