チートは用法、用量を守って正しく使いましょう。
場所は再び先ほどの戦場に戻る。
どうやら僕はこの戦場のど真ん中に放り込まれたらしい。あの神様も、もうちょっと場所を考えてくれれば良いのに。
だが、僕には焦りはない。一度死んだこともその理由の一つだが、今の僕には神様から貰ったチートスキル、その名も「不死身の剣聖」があるのだから!
語感だけで選んだが、要するに「死なない上に剣術が神」とかそんなものだろう。悠々自適の日々は早々に潰えてしまったわけだが、この能力を使って立身出世も楽しそうだ。時間はかかるだろうが、やがては悠々自適コースに繋がるはずだ。
身を低くかがめて剣戟を躱しながら、その場に落ちていた剣の一本を拾い上げる。コレさえあれば、僕は剣聖……のはずだ。実感は無いが、恐らく強いはずだ。
「よし……!」
剣を握りしめる。剣道の覚えはないが、何だかもう使いこなせそうな気がする。
「▲▲▲▲!」
ちょうど良い具合に、豚の着ぐるみが襲いかかってきた。僕の容姿が人間だから殺すべき対象なのだろう。人間と魔族は仲が悪いのが定番だ。
「行くぞぉぉおお!」
僕も叫んで剣を大きく振りかぶる。相手がどれだけ強大だろうと、神様が授けてくれた能力に適うわけがない。もし、適わないとしても僕は不死身だ。恐れる理由など無い。
「――――――!」
甲高い音を立てて、剣が宙を舞う。豚の着ぐるみは見た目と同様に凄まじい膂力で、僕の手から剣を弾き飛ばした。腕が痺れて動かない。何だろう、とても嫌な予感がする。
「▲▲▲▲▲▲!」
その時、僕は感じた。一秒が一分に、一分が一時間に、一時間が永遠に。時間がゆっくりと流れて、走馬灯が僕の脳内を駆け巡る。
豚の着ぐるみが振り回す斧が僕の首元にゆっくりと食い込んでいく様を、僕は呆然と見つめていた。プツプツと筋繊維がちぎられ、血があふれ出す。
斧が振り抜かれ、視界がグルグルと回転する。僕が見ていたのは、首から上が無くなった僕自身の身体であった。
「あれ……そ、そんな……チートスキルは?『不死身の剣聖』は?」
視界が次第に暗くなっていく。僕の首から下も噴水のように血を吹き出しながらゆっくりと崩れ落ちた。もちろん、生き返る様子もない。
―――「ご、ごめんなさい!」
不意に神様の声が届いた。薄れゆく意識の中で、彼女はこう言った。
―――「あなたに付与した能力を間違えてしまいました!あなたに付与してしまったのは――――――」
「い、いや神様……今、何て……?」
答えがよく聞こえない。結局、付与された能力名を聞く前に僕の視界は暗転した。
一つだけハッキリと断言できることがある。あの神様、僕の注文を取り違えやがった。