暴走!大巨人
「ん?なんだ、ユーリ起きていたのか。寝ていないとダメだろうが」
「こんな事態になって寝ていられるか!アレはなんだ?」
「なにって……あの傑作『死霊の大巨人』のことか?」
……傑作?確かにあの大きさは相手を威圧するのに一役買ってくれるだろう。だが、あの巨人の身体は、よくよく見ると、先ほど召喚した死霊たちと同じくグズグズのボロボロであり、一歩ずつ進む度に道に肉片を落として行っている。
「素晴らしいだろう?僕のとっておきの死霊術なんだ。まあ、見ておけ。大巨人の前には、オークの群れなんかひとたまりも無いだろう。さあ、大巨人よ!進撃するのだ」
エルナの呼びかけに応じて、大巨人が天に向かって咆哮する。その声を上げるだけでも、肉片が飛び散り、周囲の家屋や屋台などを手当たり次第に破壊している。
「ストーップ!ステイ、ステイだ!エルナ。あの巨人をこれ以上進ませるんじゃない。オークよりも先に僕たちがひとたまりも無くなってしまう」
「何を言っているんだ。わざわざ膨大な魔力を注いで作り上げた僕のロマンの結晶だぞ!アイツが咆哮して、動きまわる姿が素晴らしいんじゃないか。それをただ棒立ちさせておけって言うのか!」
「そうだよ、そう言っているんだよ!アイツがこれ以上動き回れば、その分だけ僕らの首が回らなくなるんだよおおおお!」
「そうか。……分かったよ」
エルナはうつむき加減に言った。表情はうかがえないが、どうやら話は分かってくれたみたいだ。僕はホッと息をついた。
「……じゃあ、この場から動かなければ良いんだな?」
顔を上げた魔女は、おとぎ話の中から出来てきたような、正に悪魔のような笑みを浮かべて言った。
「おい、何を考えて……」
「ならば見せてやろう!我が大巨人の必殺技を!」
エルナが杖をかざした。嫌な予感しか感じなかった僕はすぐさま彼女から杖をひったくろうと駆け出したが、二日酔いの影響のためか上手く走れない。というか戻しそうでこれ以上、走りたくない。
僕がそうして躊躇っている間にも、大巨人の口が裂けんばかりに大きく開いた。
大巨人の口の中から何かおぞましい輝きと共にウジャウジャと蠢いているものが見える。昼間、自分が出したやつを想像してしまって、また戻しそうになってしまう。今までの嫌な予感の中でも一番の嫌な予感だ。
「見るがいい!これが大巨人究極の一撃―――『死霊大砲』だ!」
鼓膜をぶち破るほどの咆哮と共に大巨人の口から吐き出されたのは―――ビームであった。だが、よく見ればそれはビームなどでは無い。大小様々な死霊たちが、おぞましい輝きと共に大巨人の口から吐き出されているのだ。要するにアレは、僕が昼間吐き出したやつとほぼ同じものだ。
吐き出された死霊たちは、オークの群れに向かって一直線に飛んでいき、そして命中した。遠くの方で爆炎が上がり、オークのものとも人間のものともつかない悲鳴が木霊する。
「うむ、命中だ!どうだ、ユーリよ。これが深淵の魔女様の実力だ!」
満足そうにエルナが高笑いするが、僕には不安しか無い。
「……あの場所、ガレスたちが戦っていたんじゃないのか?」
「……あ」
あ、じゃねーよ。もしも今の爆炎に巻き込まれていたなら、例え屈強な身体を持つガレスといえども、無事では済まないだろう。直撃を受けていれば死んでいるかも知れない。
「助けに行かないと……!」
「ま、待て。ユーリ……」
エルナの呼びかけに振り向く。彼女の様子がどこかおかしい。膝がガクガクと震えているし、杖に寄りかかるようにして立っているのだ。
「手を……手を貸してくれ。調子に乗って呪文を使いすぎたおかげで……どうやら魔力が切れたみたいなんだ」
生まれたての子羊のようにプルプルと小刻みに震えながらエルナが言う。
「動けないなら、そこで待っていてくれ。後で迎えに行くからさ」
彼女には悪いが、今はガレスたちの安否が先だ。だが、彼女は尚も中々引き下がらない。
「違う……違うんだ。僕の魔力が切れると、大巨人が……」
「……大巨人がどうなるんだ?」
「僕の制御を離れて、勝手に暴れ出す……」
「……まじ?」
「……まじ」
彼女の言葉を証明するように、大巨人は咆哮を上げて、ゆっくりとボロボロの腕を持ち上げた。大巨人の視線は、完全にこちらに向いている。僕は鉛のような身体に鞭を打って、何とかエルナを抱え上げる。
「―――――!」
大巨人の腕が勢いよく振り下ろされた。その肉体はボロボロだが、威力は凄まじいものだ。大地を大きく揺らす一撃は、水面に波紋が広がるように、周囲の建物をその衝撃で破壊していく。
「くそ!何だって制御できないものなんか作ったんだ!」
「だって、どうせなら格好良くキメたいじゃないか!」
大巨人のネーミングは直球のくせして、そこには中二病出すのかよ。
こうなったらガレスの安否を気にしている場合じゃ無い。制御できなくなった大巨人を何とかしなければいけない。しかし、これほどまでに巨大な魔獣とは未だに戦ったことはない。僕の体調を考慮すれば、大声を出せるのは一度だけ。果たして一撃で倒せる相手だろうか……。
何とか更新できました。
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