死霊の大巨人
警鐘が鳴り響いた。
街全体にどよめきが広がり、自警団や冒険者たちが忙しなく街を行き交う姿が見える。商人たちは急いで店をたたみ、住人たちは荷物をまとめて非難していく。
「来やがった……オークの群れだ……!」
男は震える声で言った。男の視線を追えば、その先には見えるだけでも十数匹のオークたちが土埃をあげながらこの街に向かってくるのが見える。
「来たな。……ガレス、準備は出来ているか?」
「ああ。こっちは準備万端だ」
重厚な鎧兜を身に纏ったガレスが言った。
「久しぶりの戦場だからな。俺の思うようにやらせてもらうさ」
「フフフ、良いだろう。我が騎士ガレスよ、お前は思う存分、オーク共を血祭りに上げてくると良い!街の守りは僕がやっておこう」
「良いのか?俺に任せて……」
「ふふん。トドメを指すのは真打ちである僕の役目だからな!雑魚はお前に譲ってあげるだけだ」
「へいへい。じゃあ、魔女様の為に露払いをしてきますよ……っと!」
言い終わらないうちにガレスは勢いよく駆け出していった。ただでさえ大きな身体が、鎧を着込んでいることによって尚更大きく見える。それが地面を踏みならしながら街中を駆け抜けていくのだ。オークに劣らぬ迫力だ。
「さて。僕は今のうちにとっておきの魔術の準備をするわけだが……おい、お前」
エルナはその場に呆然と立ち尽くしていた男に言った。
「お前もガレスを手伝ってこい。元々はお前が持ち込んだ厄介事だろう?」
「ええ?だ、だけど……」
「良いから早くしろ。さもなくば……」
エルナが杖の先端で地面をトンと叩く。
途端に、地面から数多の死霊たちがワラワラと現れた。
「この『死霊使い』が操る有象無象の内の一つにお前を加えてしまうぞ……?」
「☆○□×☆♪▲○☆―――!」
男は奇声を発しながら、一目散に駆け出して行った。
その背中を見て、エルナは大きくため息をついた。
「全く。どいつもこいつも、この魅力が分からないなんて……こんなに素敵なのに」
エルナは自分の周りに群がる死霊たちを優しくなでている。彼女が撫でる度に死霊たちの肉がボロボロと剥がれて行っているが、彼女は気にする素振りも見せない。いや、彼女は気づいていないのかも知れない。なぜなら彼女はエルナだからだ。
「よし、我が死霊共よ!街に押し入るオークたちを迎撃しろ!」
エルナの一声で、彼女に群がっていた死霊たちが一斉に駆け出していく。しかし、不完全な身体である死霊たちは、走り出した途端に真っ二つに折れたり、足や腕が外れたりと、まともに戦えそうなのは数えられるくらいだった。
「……何やっているんだろう、アイツ」
僕が眠ってそれほど時間は経っていなかったはずだ。何やら騒がしいので起きてみれば、屋敷の中からでも視認できるほど近くにオークの群れが迫っているではないか。
僕も戦わなければ。そう思ったが、今は大声を出すと違うものまで出してしまいそうだ。頭もガンガンするし、身体も上手く動きそうに無い。
いっそのこと、今日はガレスやエルナに任せてしまおうか。その考えが頭をよぎったが、かぶりを振って何とかその考えを打ち消す。これは僕らだけでは無い、この街全体の問題だ。この街の住人として、人任せにしておくなんて出来ない。
身支度を調えて、数回、深呼吸をする。自分の体調を確認するためだ。……よし。一度くらいなら大声を出せそうな気がする。僕はよろめく身体を引きずって屋敷を出た、その瞬間であった。
「な、なんだ……?」
大地が揺れていた。俗に言う「地震」というやつなのだが、それにしては様子がおかしい。揺れているのは、この屋敷一帯だけなのだ。市場の方に目を向けても、オーク相手に剣を振るうガレスたちを見ても、彼らの足下は全く揺れていない。こんな一カ所集中型の地震なんかあり得るのか?それとも異世界では、こういう地震が当たり前なのか?色々な推測が浮かぶが、その答えは意外にもすぐに出てきた。
「これが我が魔術の粋!出でよ『死霊の大巨人』!」
エルナが杖を掲げて叫んだ。
大地が割れて、先ほど召喚した死霊よりもはるかに大きな死霊が現れる。オークですら比較にもならない大きさだ。前世の出張先で見た「東○寺の大○」くらいには大きい。だが、何てひねりの無いネーミングなんだ。そこは中二病を発揮しろよ。
「よーし、死霊の大巨人よ!オークの群れを一掃しろ!」
エルナの指示に従って、大巨人はゆっくりと進撃を始める。だが、あまりの大きさに、市場も一緒に破壊してしまっている。それを見た僕の頭の中に浮かんだのはたった一つだ。
「おおおい、エルナ!コイツを今すぐ消せ!借金がまた増えるぞ!」
本日も遅れてしまいました。
定時更新はしばらく難しいかもしれません。
書き上げ次第、順次更新していこうと思います。
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