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ミリッサは盗賊である。


「やあ、災難だったね?」


 ガレスを起こし、エルナの縄を解いていると、一人の少女が現れた。先ほどの声は彼女のもののようだ。いつまで経っても憲兵が現れない所を見ると、どうやら彼女は虚報で僕らを助けてくれたらしい。


「バカバカしいよね。冒険者って毎回、この手に引っかかるんだよ?」


 彼女はクスクスと笑いながらエルナの縄を解くのを手伝ってくれる。


「ええと……どちら様で?」

「あ、君は初めて会うね?私、ミリッサっていうの」


 よろしくね、と微笑む彼女と笑顔で握手を交わす。見ず知らずの人間を助けてくれるなんて、この異世界も中々捨てたものじゃなさそうだ。だが、心の内に温かいものを感じている僕をよそに、ガレスとエルナの二人はミリッサを前に、苦虫をかみ潰したよう表情を浮かべている。


「ミリッサ。今度は何の用だ?」

「いやねぇ、そんな嫌そうな顔しないでよ、エルナ。私とあなたの仲じゃない」


「……二人はどういう関係?」


 こっそりガレスに耳打ちすれば、彼はボソリと一言。


「ミリッサ……アイツは盗賊だ」


 確かに彼女の衣服をよく見れば、身軽そうな皮革の鎧に、夜闇に紛れるための黒いローブ、七つ道具を仕込んでいるのだろうポーチと……いかにも盗賊然とした装束だ。だが、それがエルナのあの表情とどう関係しているのだろうか。


「ユーリ、お前アイツと握手したろう」

「?ああ、したな」

「何か盗られていないか?」


 急いで自分の持ち物を確認する僕の目の前で、彼女は小さな巾着袋を揺らして見せた。


「ふふふ。やっぱり初対面の人間からは盗みやすいね」

「あ!いつの間に!」


 彼女の手にあったのは、僕が街に出る際にエルナからもらったわずかな金銭が入った財布だ。


「アイツはいつもああやって金を稼いでいるんだよ」

「このやり方でエルナやガレスからは随分稼がせて貰ったからね?」


「ふざけんな、返せ!」


 飛びかかるが、ひらりと躱されてしまう。


「焦らなくても返してあげるよ。でもね……一つ、取引があるんだよ」

「取引?」


 自分のものなのに取引が必要とはどういうことなのか。だが、エルナとガレスのあの表情の意味はよく分かった。コイツはこういう奴だな。いかにも盗賊らしいというべきか。


「私がこの間拾ったゴミ……お宝を買い取って欲しいんだよ」


 おい、今ゴミって言ったぞ。


「武具屋でも服飾店でも買い取ってくれなくてね。君たちに頼めないかと思ってさ」


 そりゃあ、ゴミは買い取ってくれないだろうな。


「お願い!昨日から何も食べてないんだよ。可哀想な美少女を助けると思って!」

「……分かったよ、どんなものなんだ?」

「おお!話が早いね。将来は美女になるよ~」


 そう言って彼女は背負っていた背嚢を開いた。おっさんみたいな殺し文句だな。おっさんは僕の方だけど。


「じゃじゃーん、コレだよ!」


 彼女が取り出したのは、一着の服であった。それを見た途端、僕は言葉を失った。

 その服は、僕がかつて着ていた服―――スーツだったのだ。


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