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知るわけもなく

桐島視点



ばたん、と部屋を出て行った猫田小豆、なんていう妙珍ちくりんな名前の生徒。


部屋に充満する臭いソースの臭いに顔を顰めながらの自分の手によってクルクルとまわるペンを見る限り、機嫌は上々だ。


「志摩のいう他とは別……くっ、面白いじゃないか」


綺麗で滑らかな皮を被っている、白い男。皮を剥がせば何色か、まあ何色でも関係ないのだが。

気になったものは手にいれるにかぎる。それが役に立つか立たないかは己の使い方しだいだろう。


(この俺がわからないのだ…他の奴等はもっとわからないだろうな。)


それを、志摩とおそらくあの副会長の出方を考えれば垂れ込み元の神田秋は見抜いていたのだろう。


今回の食堂での事は予想外だったが…。


――この俺の考えになんら支障はない。


満足げに微笑む桐島の顔は誰もが見惚れるほど美しいものだ。

しかし元よりなのか、歪にゆがめられた口元がどうしても悪どさを全面的に主張してしまうのが残念だった。



くるくると回していたペンとポケットにしまう。



あの様子だと水城は動くだろう、そして猫田というあの生徒は何かを起こす。

その時に動かなければならないのは風紀であるこの俺だ。


生徒会が退学だなんだと無い頭を絞って追い詰めようとするに違いない。

ワンパターンが好きな、脳の足らない馬鹿共の面白くもない興だ。


そして生徒会と同等の権利を持つ俺の一言で全てが決まる。

退学に賛成するのも、何事もなかったかのようにするのも。


その時だ、化けの皮を剥がすのは…。



お門違いもいいところな勘違いをしているのだろうあの生徒を思い出し喉の奥でくつくつと笑う。


気付けばいい、そして考えろ。



「ああ……面白い」



気付いたところで



(逃がしも、逃げられもしなが、な。)


部屋に充満するソースの匂いを換気するためあけた窓から吹き込む風が、積まれた書類を散らばした。




部屋に戻った俺は哲平が寝てる事をいい事に風呂にはいり、ばれないように色々としながら携帯をとった。


毛先から滴り落ちる水滴が携帯の画面に落ちるのをタオルで拭きながら番号を打ち込む。



―お魚加えたドラ猫~おーおっかけて~はだしで~かけてく~♪


軽快でおなじみのメロディーが流れる。肝心のフレーズが出る前にブツッと切れた。


『もしも~しこちら問屋っス~』


「相変わらず嫌な待ち歌してんねー問屋」


電話越しできっと嬉しそうに笑っているのだろう問屋に普段とは違った声色で喋った。



「ばぁか鈍間、警告してくんの遅せーよ。今日接触しちゃったんだけど」


『アハ、蜘蛛君の呪いがあたったんスね~』


「呪いってなによ、ひどくない?」


『酷くねぇよ馬鹿!!!警戒心も危機感もねぇお前に言ったって無駄だ!』


「おわっ」


ふいに聞こえた大声に携帯を耳から離して耳を押さえる。

きーん、と響いて痛い。いつの間に蜘蛛に変わってたんだよー酷いね、色々と。


電話の向こうで問屋がなにやら騒いでいる。蜘蛛が携帯をむしったようだ。


『で、誰と接触したんだよ…』


「あれ、問屋は引っ込んじゃった?」


俺が無理矢理電話取った、という彼に俺は笑いながら事の一部始終を喋った。

接触したのが副会長で、ちょーっと素を見せたって事と、友達攻撃されるかもって事。


カタカタとキーボードを打つ音が聞こえる。


「あのさぁ~調べてくれるのは嬉しいんだけどね。俺ってば金ないんですけどー」


普通の生徒なら一つは二つは情報買えるだろうが俺は本当の一般人だ。親が社長って事もない。そりゃ裕福な方だけどほとんど学費に消えてるし。


『問屋がタダでいいってよ。あの野郎お前に甘いから』


「まじで?あんがとさん、ここだけ自分の名前が役に立つんだよねー」


問屋が猫マニアでよかった。

心底そう思いながら蜘蛛が調べ終わるまでスウェットをはく。


蜘蛛、とはもちろん本当の名前じゃない。問屋は問屋、頭のネジが全部ぶっとんでる奴。蜘蛛は蜘蛛、蜘蛛はパソコン上では最強らしい。


将来有望な天才ハッカー。

ネット内に張り巡らされた糸、そのネットワークの広さから糸と蜘蛛の糸として、蜘蛛と呼ばれてるそうだ。



また数ある情報屋の中でも問屋はその世界で一位二位を争うらしい。


『まあ最近狐がめきめきと力つけてきてるんスけどねえ』なんて話を聞いたのは最近だ。


学校内でも問屋を使う奴はたくさんいる、売ってるのはごくわずかだからこうして俺は喋ったり軽口たたいたり出来る。


問屋は正体不明の人間だった。


(ま、変人コンビとよろしくしようなんて考える奴はいないんだろけど。)



下心ありで近づけば問屋が始末すんのがオチだし、始末って何やってんのか謎だけど…アンダーグラウンドに手をつける気はさらさらないから聞かない。



『おい猫。ネタは色々あるけど…まあお前じゃ有効に使えねーだろ』


「ちょっとちょっと馬鹿にしないでよね、とりあえずー今までの悪行全部まとめて送ってきてくんね?退学させたとかリンチさせたとか強姦させたとか……どっちかというとエグイのチョイスで」



『あほ!そんなんでまわってるわけねーだろ!』


「えーハッカーの名折れ」


『…っ。この糞猫が!!一週間以内に山ほどの資料送りつけてやるわ』



忌忌しい、と声からびしびし伝わる感情に苦笑しながら「それはやだ」と返した。


哲平に見つかったらややこしいじゃない。

心配されるのも悪いし、まず殴られるだろうからそんなの嫌だね。


「はいはいんじゃよろしくね、あ、問屋に代わって」


『チッ…問屋ー』


『はいはいはい何スかぁ猫君』


「今回まじでタダでいいわけ?」


『あ、かまわないでスよ~。いつも楽しませてもらってんスからぁ』


知ってるか問屋、学校内のいたるところに盗聴器とカメラつけんの犯罪よ。

あとお前風呂場にまでつけんのやめたれ。


なんて、却下されるのは目に見えているから言わないけど。


兎にも角にも、携帯を投げ出してベッドに沈む。



(さーてと。明日はどんな猫田君でいけば難なくいけるかな。)


明日の自分を想像しながら胸の奥に固まったしこりのようなものから目をそむけた。


片足夢のワンダーランドに突っ込んだ俺は明日の事を考えてにやけながら、部屋の電気を消した。


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