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驚いたような顔で固まる副会長。
そりゃ、ね。
俺だって完璧な人間ってわけじゃないし私情だって挟むし主観的にだって見る。
誰も悪者にしない、なんて事もない。
嫌いな奴もいたら好きな奴もいるし、腹が立てばやることもやる。
誰も自分に反撃してこない、なんて考えているなんて、冗談だろ。笑える。
「攻撃される覚悟もない奴が、他人の想いの重みもわからない奴が、偉そうに人様のテリトリーに入ろうなんて笑わせないで下さいよ」
俺は周りに害を与えるつもりなんてないし、勝手にやってればいい自由主義だ。
だけど他人に自分のテリトリー荒らされてへらついてる様な奴でもねーわけ、わかる?
未だに固まっている副会長。
俺は距離をすこしとると情けなく顔をゆがめた。
副会長が何か言おうを口を開けた瞬間、三者の声でそれはさえぎられる。
「まったく…毎回毎回、一日に何度厄介事をすればおとなしくなるんですかね生徒会は」
「!……桐島…さっさとこの生徒を連れていけ!!」
色素の薄い目が俺と副会長を交互に一概すると両手を叩いて帰れ、と促す。
俺はそれを横目で見ていたが…後ろで震える見上君が少し気になって脇下から顔を覗いてみた。
「見上君?」
「あ……ね、こた君…だ、大丈夫?」
「うん…なんとか。ごめんね、変な所見せちゃって」
これだけ呆けているのだから俺達の会話は聞こえていなかったと思う。
見上君はそれ以上に焦っていただろうし…それに生徒会の事で頭がいっぱいで俺なんかの事を気にかけている時間なんてなかっただろう。
「ネコッネコタッ!」
神田が何か言おうとするが言葉が見つからないのか口をもごもごと動かすだけだ。
そんな相手にため息を吐くと俺は背を向けた。
「また君か、B-2の生徒だったな。君は前も食堂で神田秋と揉めていなかったか」
あわよくばそのまま逃げれればなー、とか思っていた俺に背筋が冷えるような声色の呼びかけをくらった。
「…はい」
「なんらかの処罰が必要のようだ、風紀を乱すものは風紀委員長として見逃せない。ついてこい」
風紀を乱すものが学内のトップにいるんですよねー、風紀委員長見逃し三振だよばーか。
こく、と頷いた俺はそのまま風紀委員長についていく。
それを不安そうな眼差しで見ていた見上君に小さく笑いかけた。
(流石に…巻き込んだのは悪いよねー…。)
ごめんねという意味や大丈夫だという意味をこめて見上君に微笑んだ。
神田のいう、本気の笑顔かどうかはしらないが少し力の抜けたところを見ると効果はあったようだ。
じっとりとした生徒会からの視線の中に一際殺意のこもった視線が俺に絡みつく。
いわずとも、それが誰かなんてわかっている。
屈辱的だった?
心底自分より劣ると蔑んでいた相手に馬鹿にされて、屈辱的だった?
(うわー面倒な事やっちゃったなぁ。他の生徒会からも嫌がらせかー…まあ喜ぶふりでもしとけばその内飽きるかなあ。)
俺はほら、生徒会のファンって役だから。
に、してもだ。
そんな事を思いながら俺は風紀委員長の後ろをついていった。
夜、という事もあって外は静かだ。
人はちらほらいるものの殆どがD組、BとAはほとんどいない。そりゃ皆さん食堂に集まってたんだからしょうがないよね。
「中に入れ」
キィ、と開かれたドア。
ぱちん、と電気をつけるとその眩しさに目を細めた。
それより、俺まだオムライスで汚れてるんだけどなんでつっこまないのこの先輩。
意外だったのはこの人がまだ俺の事を覚えていた、という事だ。
てっきりあの時は三人の世界に浸っていたから俺なんて覚えられていないと思っていたけど。
「椅子…はいらないな、適当にどこかにもたれていろ、ああその汚い面をどうにかして欲しいが…仕方あるまい」
生徒達がいない、だからこんな崩れた喋り方なのだろうか。
にしても崩しすぎじゃないか?普段笑顔を振りまいている風紀委員長が、珍しい。
「す、すいません」
「名前は…猫田小豆だったな、性格は温和で優しく人あたりもいい、便りにもされていて多数のファン……はっ、胡散臭いという言葉で作られたような性格だな」
どーいう意味ですか。
ちょっとちょっと、酷い言い方じゃない?
切れ長な風紀委員長の視線に俺は縮こまってみせる。
「今回の事と昼の事、そして前回の事にも神田秋ともに生徒会の失態が目立つ、今は貴様を野放しにしておいてやるが…」
「あっありがとうございます!!」
「ただし」
かんっ、とシャーペンが机につきたてられる。
鋭い目が俺を見上げた。
「いつまでもそれで通ると思わないことだ、そして志摩に危害を加えるなとファンの奴等に伝えておけ」
「はっ、はい!」
この人すっげ私情はさみこんだよ!!風紀委員長は志摩がお気に入り。以前それを知ったとき、神田よりも志摩のほうが勢力図を広げていると感じたのは事実だ。
なんて思っていると桐島がにやりと笑った。
笑ったというより口角を少し上げただけだが…。
長い足を組み背を椅子に預け、腕を組み顎を少し上げる。
「この俺に、出来ない事はない」
「…………あっ、はい!!」
呆けすぎて思わず反応することを忘れてしまっていた俺。
(あ、あれは…王様ポーズじゃねぇの!?すっげリアルにあんなんやる人初めて見たわ…
。)
「…はいはいはいはい…貴様ははいしか言えないのか」
「えっいやんな事はないすけ……ないですけど!!」
退屈だ、とでもいうような相手。
いやいやいやいや…この人なにこの人!!?
「まぁいい、貴様は見たところ無害のようだし…ああ、猫田だったな、覚えておいてやろう。いつか役に立つかもしれないからな」
ふっ、と笑う桐島に生徒会一の馬鹿が被ってしまった。
同じ匂いするんだけどまじで…そうなのかな。
いつのまにか胸の中のイライラは消えていた。
そのかわりむくむくとなにやら俺の中では皆無だった、脳内警報というものが育っていっている。
(な、んだぁ…このなんつーか…ぞわって毛が逆立つような感じは。)
「しばらくは部屋でじっとしている事だ、もういいぞ」
「あ…失礼しました」
しっしっ、と追い払うような手に小さく頭を下げるとそのままドアを開ける。
一歩、踏み出そうと足を前に出した時、思い出したように桐島は呟いた。
「ああ、そうだ。金は無駄にしてはならないぞ、あと…なにか勘違いをしているようだが、もう一度よく考える事だ」
「?」
何を?ぱたん、とドアを閉めた後。
ふと、疑問に思った。
(あれ…あいつ…。)
『今回の事と昼の事、そして前回の事にも神田秋ともに生徒会の失態が目立つ、今は貴様を野放しにしておいてやるが…』
『今回の事と昼の事、そして前回の…』
『今回の事と昼の事…』
「………昼?」
部屋で不敵な笑みを浮かべる桐島の事など露知らず、俺はソース臭い頭をかきながら部屋に戻るため、歩いた。




