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「俺さ、秋の事庇ったけど。正直最近秋についていけないんだよ」
「そうなの」
「うん、なんでだろ。秋には何か色々少しずつ欠けてる気がする……それが悪いってわけじゃないんだけど。でも俺これだけはわかってた」
「何?」
ぐ、と顔を俺に近づけた志摩は悪戯っ子のようにニッ、と笑った。
志摩は特に目立つ生徒ではなかったが時たまこんな顔をしていたのを思い出す。
(ああ、俺がよく見た笑顔だ。そうそう、こいつは世話焼きだけど時々餓鬼みたいだった。)
そりゃそうだ。だってまだ学生なんだ。
「猫田と秋は絶対仲良くなれないって!!!」
「…ぶはっ!!そんな事思ってたのか」
「だって猫田は我侭だし性格も良くはないけど、人を考えた行動が出来る奴だから。でも秋は人を思いやる事は出来てもどこか薄いから、合わなさそうだって」
…………ん?
ん?ん?
ぴた、と半笑いのままで止まった俺。志摩はにこにこと俺を見つめた。つーかさっきから見つめすぎだよ、穴あくよ俺。
まるで害のないかのように見えるその笑顔に頬がひきつった。
「猫田、時々ツメが甘いな!俺みたいな奴だと感づかれるよ」
「……志摩君、記憶を消すのには鈍器で殴るのが一番だと思わないか?まあこれは撲殺してしまう恐れがあるんだけどね」
「は!?ちょっまっストップストップ!!」
「志摩君、大丈夫痛くないから、ね?」
「ね?じゃねええええ!!!!!」
――ゴッ。
ふしゅぅううう、と頭からなにやら白い煙が出ている志摩。
ほらな、危ない危ない。
俺ってば照れ屋さん、てへっ。
まったく汗をかいてはいないがスポーツ終わりの好青年のような笑顔を浮かべる。青い空に白い雲、青春だ。実にすがすがしい。
「テメェ……志摩さんに何やってんだゴラァ!!」
「うおっ!?」
完全に和んでいると背後から突然あがった怒号に心臓が飛び出て。
「ほ、ほへ…」
ドキドキと暴れる心臓を必死に宥めながら、ドアから顔半分を出した状態でこちらを睨み付ける顔に苦笑いがもれた。
まさかの登場だ。
威勢よく怒鳴りながらずかずかと側まで近づいてくる生徒。知っている顔、教室で見た事のある生徒だ。
志摩がD組とつるみだした頃から志摩の数メートル背後をつけていた。
教室のドアから志摩の事を見ていた、この目立つ男に俺は嫌でも顔を覚えたのだ。
赤井千草。
つまりこいつは簡単に言えば、
「俺は志摩さんを、ずっっっっと見てたからなぁてめぇの腹なんざお見通しなんだよ!」
志摩のストーカー。
「あ、そう。鼻血でてんぞストーカー」
ボタボタと滴り落ちる血がコンクリートに血溜まりを作っていた。
「はっ、血も落ちるいい男だろが」
ボタボタと滴り落ちる血がコンクリートに血溜まりを作っていた。
いやいやすかしても無理だから。
間違ってるし血は血でも志摩に興奮してでた鼻血だからね。
ぐしぐしと鼻から滴り落ちる血を拭いた赤井。
茶まじりの金髪に短い眉毛、加えて口ピアス。
顔はいいのだがいかんせん馬鹿だと有名だ。
D組一の馬鹿だと、情報通な知人がにやつきながら言っていた。
鼻から下を赤くした赤井は足早に俺に近づいてくる。
俺は近づいてくる赤井にびくりと肩を揺らし、ジリジリと後退りをした。
「ふっ、俺に圧倒されるなんて…小物だな」
「うわっあっ近づくな!」
俺は顔面蒼白である。
逃げ惑う俺に気をよくした赤井はニヤニヤと足を早めた。
足のリーチからしてすぐに追い詰められるのは確実だ。
現実、既にフェンスに背があたっている。
しかし考えてみよう、この性悪たかが不良ごときにビビるような綺麗なハートの持ち主か。
にゅっ、と腕を伸ばした赤井。
小豆は数歩下がると腕を横に伸ばした。勢いをつけ右足を思いきり踏み込む。
「っきたねぇっつってんだろがマロがぁ!!」
「ぐはっ」
華麗にきまったラリアット。
どさっ、と倒れる赤井の肩を踏み付ける。
「志摩に興奮して鼻血だそうが勃発勃起しようが勝手だけどなぁ!鼻血振り散らしてんじゃねぇよ俺につくでしょうが!」
そう、滴り落ちる血を拭いた赤井、それはいいのだ。
だが…とれるどころか延びた。
鼻の穴から蛇線を描いて赤いラインが大量生産。
もちろんそんな渇いているわけもない。
つまり格好つけているが鼻からはなっがい赤い毛が生えてますよ、状態だったわけである。