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「だっ大丈夫かネコタァ!!ごめんなっまさかこんなことなるとか思わなくて…」
「大丈夫かじゃないでしょ!!!猫田君大丈夫?」
「……ごめんね、見上君ハンカチかしてくれない?」
「あっうん!!」
俺は皿から顔を上げた。視線を下げると無残なことになっている眼鏡。
眼鏡割れたし。つーか眼鏡割れた衝撃でめっちゃ痛かったし。
くせーし。オムライスくせーって何、髪にもついてんだけどさ。
オムライスから顔を上げる。
すると米やら肉やらなんやらでべっとべとだ。
ギャラリーはこの展開を面白そうに見ている。だから生徒会の奴等は中々近づけない。
一般生徒に囲まれながら俺はこめかみに浮かぶ血管をどうしようかと考えた。
これなら大人しく哲平と夕飯と一緒にするべきだった。
どうする俺、そのまま怒るか?
それとも平静を装って堪えるか?
自分に正直に生きようとするとだな、この糞馬鹿野郎を便所の地面にこすりつけてやりたい気分なんだよ。
顔を拭いていく俺をはらはらと見つめる見上君とカウンターから見ているウェイター。
不良ははやし立ててるし。
んでもって俺は生徒会との接触はさけたい、うざすぎるし志摩の二の舞なんてごめんだからだ。
「ほ、本当に大丈夫か?」
「うん?ああ大丈夫、だけどさっさとその手をどかしてくれないから不愉快だ」
背中に添えられた手が物凄く忌忌しい。
そう呟くと神田は慌てててを引いた。
もうこれ口の中切れた痛みとか比じゃないよね、うん。
ざわめく周囲を軽く見渡すと生徒会が近づいてきている。
大丈夫、落ち着け俺大丈夫だ、俺は優しい猫田君だ。大丈夫だよ、これからは気をつけてねと優しく言って笑ってあげればいい。
と、いう事で皆さんご一緒に~はいSAY!!
「本当にごめんなっ俺そんなつもりじゃなかっ」
ぐしゃっ。
「じゃぁどんなつもりだったのかな?」
否、俺は優しい猫田君ではない。
とりあえず口調だけ変えないで笑顔でオムライスを神田の顔面にたたきつけた。
(テメェまじふざけんなよ学食高いんだよ金返せよコラ、なになんなのお前死ぬの。)
神田の後ろ辺りにいた奴等も軽く被害はうけただろうが面白い見世物見てるぶん、そのぐらいは我慢するべきだ。
そしてそのままぐーりぐーりと皿を押し付ける。
もごもご何かいっているが俺に聞く耳は持ち合わせていない。
なんたって、飯の時間を邪魔されたんだからな。
「え?何?あはは、神田君、僕とおそろいで嬉しいって?僕もその君のきったねぇ糞腹立つ顔にオムライスつけれて嬉しいよ」
あえて声は抑え気味に、だ。
だけど生徒会の奴等からも丸見えだろう、がしゃっ、と音を立ててずるりと落ちた皿。
神田は呆然と俺を見ている。
俺はにこ、と笑うと見上君に小さく謝った。
「ごめんね、ハンカチ汚して。洗って返すからね」
「えっいいよそんなの!!」
見上君はこれでいいとして、問題は生徒会の奴等だ。
「「お前秋君になんてことしてくれてんのお!!!」」
「信じられないっ最低!!」
「おいそこのドカス…てめぇ名前はなんだ?退学にしてやるよ」
うわ会長めっさうぜぇ。
しかし誰かが走っていったから数分で風紀委員長が来るだろう、生徒会の奴等に延々罵倒されつづけるぐらいなら風紀委員長の説教部屋行きのが断然マシだ。
内心イライラピークだけど流石に生徒会にまでやるつもりは毛頭もない、ただしけな貶しまくってやる。
「ごっごめんなさい…だけど神田君が先に…」
「「「「お前がそこに座ってるから悪い」」」」
さて、風紀委員長がくるまで俺はもつかね。
ぽき、と首を鳴らして俺は目の前の馬鹿共を見据えた。
ざわざわとざわめく食堂。
これじゃ昼に上手いことやってのけた俺、無駄足にも程があるだろうとか思いながら。
「大体支えられなかった自分が悪いんでしょ?!」
「ご、ごめんなさい…っ僕…」
「本当、退学でいーよ」
「退学でいーよ、本当」
「そんなぁっ」
適当に流す俺、それでも涙目になるのを逃さない。
こいつらはそういうのが大嫌いだとわかっているしこれ以上煽るのも嫌だけど…ここで普通の反応すんのも可笑しいからな。
あー、一言で言うと、めんどくせ。飯そんな食えてねぇよ泣きたい。
すると今まで呆然としていた神田がようやくハッとしたのか俺を庇おうとする。
ああやめて、お前ろくな事いわねーし。
それはもう昼に見たからいいんだよいらねーよ引っ込め馬鹿!!
神田は俺の前にたつと役員を目の前に両手を広げた。
「おっ、俺が悪いんだから穂波も桜も梅も止めろって!!」
もはや食堂はちょっとしたパニックだ。不良共は面白そうに見ているし一般生徒もそれは同じだ。神田の汚れた顔を写真にとっているやつさえいる。
「そんな子、庇う事ないよ秋、おいで」
そんな収集のつかない中、一際凛とした声が響いた。
これは……副会長だ。
嫌味なほどさらさらの黒髪にノンフレームの眼鏡。
神田の顔を拭いてやると俺を見て冷たく言い放った。
「君本人を攻撃するより、君の友人を狙った方が君は退学しやすいね?」
「そっ、そんなことっや、止めてください!!」
にやにやと気色悪い笑みで俺を見つめる相手。
そうするつもりだったのか、と俺は納得した。これで昼の事もつじつまがあう。しかし考えることがメジャーすぎて笑えない。
実行する日が早まっただけで、するつもりだったのだろう。
(今度問屋に苦情いいにいこ…忠告すんのがおせぇって。)
今にも泣きそうな俺に副会長は笑みを深める。
それに震える見上君は俺の後ろに隠れながら必死で俺の服を掴んでいた。
「まさかこんなに早くなるとは思わなかったけど……三山哲平君だったかな?彼とは随分仲がいいみたいだけど」
(ほーやっぱ哲平にすんのか…。)
「屈辱的だよね、友人が余計な事をしたばかりに暴行をうけるなんて」
ゆっくりと近づいてきたこの副会長、神田には聞こえないように俺の傍で呟く。
この時点で俺は目立ちまくってるわけで。
そんな事どうでもいいけど、だってどうにでも出来る。
志摩みたいに嫌われてるわけでもない、むしろ皆の猫田君~だ。
つーか、は?
「暴行…?」
「ああ、強姦といった方がいいのかな?」
くす、と耳にさわる笑い声。
俺は耐え切れなくなってその場で副会長にしかわからない程度で笑った。
「…何が可笑しい?」
「いやぁ、すいませんつい。あまりにも馬鹿すぎて」
「ふっ、余裕だね」
「そんな事ないですよ、でも覚悟しておいてくださいね」
「負け犬の遠吠えはや」
「神田をあんたの前で犯してやる」
それまで悠々とした笑みを浮かべていた副会長からサッ、と笑みが消えた。
それに気付かない周囲はなんだなんだ、とそわそわしている。
ほらな、ここで罵声とかきつーい視線を浴びない所が俺と神田と志摩の違いなんですよ。
八方美人は得だよ?性格悪くなるけども。
軽い口調でいっているけど、この人ならわかるだろう。
俺が、一切の冗談も虚勢も含んでいない事を。
「なにたくらんでるのか知りませんけど…俺の大事なものに手を出すって言うんだ、自分の大事なものにも手を出される覚悟はあるんですよねぇ、もちろん」
「……君に何が出来るというのかな」
「あんたを縛って神田を目の前で犯す。指を一本一本折って爪を剥がして泣き叫ぶ神田をあんたの前で蹂躙してやる。ああファンクラブの会長たちに渡したら運が悪かったら殺されるかも」
俺だってそんな趣味の悪い事したくないさ、だけどしょうがないだろ?
あんたがそのつもりならそれくらい簡単にしてやる。




