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どったんばったんと音を立ててドアを開けた哲平になんだと思ったが…。


「すー……」


「最近騒がしかったもんねぇ」


顔におしつけられたクッションを押しのけ、男の硬い太股に頭のっけながら哲平の寝顔を見る。

アイスで怒ったり、急に殴られたり。なんだ、あれだ。哲平らしかぬ行動だったわけだが…。


大体哲平が授業をサボるなんて珍しいにもほどがある。


(神田転入してきてから騒がしかったし…。)


俺も少し機嫌が悪い日があった。だが本当に哲平がこんな風になるなんて珍しいことだ。


「んー可愛くない寝顔だことで」


これが女の子とかならうはうはのきゅーん、とかだったろけど生憎男だ。

しかもちょっときつい顔してるフツメンだ。


(ま、哲平じゃなきゃ俺もこんなにくつろいでないんだけど。)


普通なら「あ、足痺れないかな」とか「はっ、恥ずかしいな」とか思うのかもしれないが俺は思わないよね、いや女相手なら思うかもだけど。


足が痺れたら起きるか起こされるかだからまあいいわな。


勝手に納得した俺はうとうと、と襲いくる睡魔に抗う事もせずにそのまま瞼を閉じた。




――一方。


「いった~…なんで五円玉?」


生徒会室につれてこられた俺はでこにはりついた五円玉を剥がした。


あの後緑が戻ってきて騒ぐ生徒達をファンの…一番偉いやつ?がその場を押さえて、先に俺達は部屋に戻った。

何度か見たことがあるそいつはとても綺麗な顔をしていて声をかけようかと思ったが、揚羽が離してくれなかった。


「まじで置いて戻ってきてよかったのかな…」


「いいんですよ、彼は人見の役に立てて嬉しいんですから」


吟が優しく笑う。

俺は安心して手の中の五円玉を眺めた。


(……なーんか…見えたんだよなぁ。)


あの結構ちゃんと筋肉ついてた腕とか、黒い髪とか、目つきの悪くなった顔だとか、ずれた赤縁眼鏡だとか。


(あれ…ネコタ…だったのかな。)


俺の勘だから確信はないんだけど…、ちょろっと見えたその時に(あ)って思ったんだ。

だが俺にはそれよりも考えることがある。


「…幸助……大丈夫かな」


「気にする事なんてないよおー!!だって志摩ちんがこなかったら僕は痛い思いしなくてよかったわけだしぃ」


ぷぅ、と頬を膨らませる穂波に俺は苦笑した。

でもあれは幸助のせいじゃない。幸助を連れて行ったやつら、D組のやつらが悪いんだ。きっと影で幸助をいじめていたに違いない。


幸助はちゃんと断れないやつだから俺が一緒にいてやんなきゃだめなんだ!


「秋君、気に病む事なんてなにもないんだよ」


「気に病む事なんてなにもないんだよ、秋君」


「梅…桜……でも…幸助は俺の大事な親友だから」


急に無言になった梅と桜に首をかしげながら五円玉をポケットの中に突っ込んだ。

だってこれがもしネコタのなら返さないといけないし…なんでこんな事をしたのかも聞かないといけない。


きっと話せばわかってくれる。

根っから悪い奴なんていないんだから…俺は頑張る。


俺は決心するように胸の辺りをきゅ、と掴んだ。


(待ってろよなっ幸助にネコタ!!)


神田がそんな場違いにも程がある自分論を繰り広げている中、俺は未だに夢の中だった。



涼やかな風が頬を撫でる。少しあいた窓から生暖かい風が吹き込み、俺はその心地よさに身じろぎした。優しく髪をすかれる感触に意識が浮上してきた。男の髪なんか撫でて気持ちいいもんかね。


優しく頭をなでる手を掴み声をかける。


「ん………ふぁあぁー…はよ」


「おー、大分寝てたぞ俺等、もう四時だし」


「うっそまじで、うわー丸々サボりだねぇ」


よいしょ、と起き上がりボリボリと頭を掻く。

哲平は俺より随分先に起きていたのかすっきりしている。


「哲平太股硬てーよもっと柔らかくして」


「ざけんな俺はお前と違ってちゃんと筋肉なんだよ、柔らかさなら女求めろ」


「あっ酷い!ちょっと気にしてるんだからやーめーてーよーねー」


吐き捨てるようないいぶりに俺は哲平に近寄り頬をぷにぷにと突いた。

これイラッてするよね、まあだからしてんだけど。


「う、ぜぇ!!」


「んがはっ!は、鼻いてぇ…」


腕をぶんっ、と振り払った哲平、その肘が顔面ヒットした。

痛いだろ、肘はいかんだろ!


俺は体質的にそうなのか筋肉がつきにくい。かといって脂肪ぶよぶよってわけでもない。ちょーっと哲平より二の腕とか太股が柔らかいぐらいだ。


はいそこ太ってんだろとか思った奴ぶっ殺します。


ひら、ひら、と風に揺られてひらつくカーテンをくくり、窓を閉める。

換気はもう十分でしょ。


のそのそとフローリングを動くのがたるいので四つんばいで移動する俺。

すると尻を思い切り蹴り上げられた。


「いっだぁあ!!」


「悪ぃな、ついそこに尻があったもんだから」


「そんなついは知らねーよ!どうしてくれんのケツ穴広がったらあ!お嫁にいけないじゃないの!」


「どこに嫁に行くつもりだお前は」


「んー赤井君?多分毎日がSとMで構成されるんだよーうっはバイオレンス」


けらけら笑う俺。

急に喉が絞まったかと思うと襟首を掴まれ立たされた。哲平のぐるぐる髪の毛からのぞく目が真剣だ。


「俺の前であの変態不良馬鹿の名前はだ、す、な」


「なぁんでそんな嫌いなの~」


する、とつかまれていた襟首をやんわりと外して冷蔵庫に入っているポカリを手に取る。後ろでため息が聞こえたが気にしない。


「なんとなく気に食わん、つーかお前もあいつ苦手だろ」


「へ?俺?」


こく、と喉に流し込んだポカリ。

口をつけたまま喋れば声がこもって変な音になった。


ずってくるズボンを上げながらソファに座りなおす。


「あいつと居る小豆はいつものヘラ~っとした雰囲気っつーか余裕?少ねーし」


「あー…まぁ、うん…?初めてのタイプだったからなー俺が通用しないみたい」


どうやったって変態ワード満載の言葉で返されるし。


苦手っつなら森崎の方が苦手だ。

あの人いろいろと怖いし。



「もー哲っちゃんやきもち焼かないの!」


つん、と頬をつつけば物凄い冷めた目で、


「自覚あんなら余計な事してんな」


真顔で言われた。固まる俺、え、え?


「……ワンモアプリーズ?」


「嘘だばーか」


「ぐふっ」


しかしそれはすぐに口角をつりあげた悪人面になる。

殴られた俺はソファから落ちながら反則だろー、と悪態をついていた。

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