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変なところから

哲平視点



小豆が笑って屋上の階段を下りていった後、取り残された俺と森崎先輩は物凄い無言だった。

取り残された後の微妙なこの空気をどうしてくれるんだ。


俺自身無口な方だし後ろでニコニコ森崎はうぜぇし。

どうするか、なんて考えていると屋上のドアがバンッ、と開いた。


「ふ、フィ、フィニ!!」


「…………は?」


「あはっ、うん、いい反応だよね三山君だっけ」


ぜぇぜぇと相当の距離を走ってきたのか人見、生徒会書記の人見緑が肩で息をしながら突然ドアを開けて入ってきたのだから。そりゃあ、いくら俺でも驚くだろう。


「何?どうしたのさ緑」


「食堂でファンの奴等がすっげぇ暴れてるから収めろっていいにきたのにお前いねぇし!!探しまくって、最後に屋上にきたらやっと…見つけて…とにかく収めてこい」


(……人見ってこんな喋る奴だったのか…?)


驚きだ。

こいつは寡黙で、一度暴れだしたら手がつけられない危ない奴で…と、まぁ俺はそのぐらいしか知らないのだが。

誰も寄せ付けない孤高の男、人見緑。


「食堂?どーしたわけ?」


「なんか…生徒会とD組が揉めてて…志摩と、秋が…なんかやってた。俺はその場にいなくて…かえって来る時副会長にメールされて」


「へぇ……」


ふむ、と考え込む森崎。

俺は嫌な感じがした。何度も何度も感じるソレ、大体予想はついているのだが。


(絶対…絶対あいつなんか変な所で指突っ込んでる!!)


小豆は面倒くさがりだから首までは突っ込まないだろう、でも確実に第二関節あたりまでは指を突っ込んでる。


なんだかんだで付き合いは長い、あれの事はここでは俺が一番よく知っているはずだ。


(午後の授業出ててくんのかなアイツ……どうだろう。)


さぼるとかなんとか言っていたなら部屋か?いや保健室…保健室もろくな噂がない。

明らかにそわそわしていたのか、森崎は首をかしげながら言った。



「そんなに気になるならついてくる?」


「…いや、遠慮しておきます。嫌な気がするんで」


「あはは、三山君は第六感が強いのかな?どっちにしても面白い」


(ああ…なんで、こうも俺の周りは。)



ややこしい奴等ばかりなのか。

それは俺が引き寄せているのか、あの人騒がせな小豆が引き寄せているのかはわからないがとにかく、俺が頼りにしていいものは自分と、自分の勘だけだと随分前から知ってい居る。



「部屋に戻ります部屋に」


「そう、残念。じゃー、またあの子によろしく言っててね」



ぺこ、とお辞儀をした俺に満足したのか笑顔のまま階段を下りていった森崎。

で、人見が少し俺を見つめて、無言で帰っていった。



「……なんだ、あれ」


まるで森崎の番犬のようだ。


(まあ…そんなわけないか…。)


なんだかんだで毎回毎回俺は走ってるなと思いながら静かな屋上の階段を駆け下りて一直線に自分の部屋に向かった。


あいつはきっと俺のこのすばらしい努力をへら、と笑ってすませるんだ。

無理やりでも礼をいわせてやる。



バタバタと廊下を走って思い切りドアを開け放った俺は視界に入った現実に固まった。


「んおっ!、び、びびったぁ…」


先ほどの人見のように肩で息をする俺。


(こいつ…っのやろう…。)


自分でもメラッ、と怒りが燃えたのがわかった。ほんの少しでも心配したのがいけなかったのかもしれない。


(にゃろう…勝手に俺のアイス食ってやがる…。)


ソファで体育座りをしながら後ろを見る小豆。スプーン加えて、ジャージで。完璧休日スタイルだよこの野郎。

ずかずかと近づく俺に小豆は体をビクッ、と揺らすと戸惑った顔でソファから飛び降り、俺と距離をとった。


「な、な、なに怒ってんの?俺なんかしたけ?なんかしてたらごめんね?」


「…それ、俺のアイス」


「へ?あ、ああ!!アイスで怒ってんの?いいじゃない別にアイスくらい」


へら、と。やっぱりへら、と笑った相手に俺はゴォオッ、と怒りが燃えたのを感じた。

びしっ、と小豆の持つアイスを指差しながら俺は怒鳴る。


「それはなぁ!!期間限定の抹茶ミルク味なんだよお前は小豆味食っとけばいいだろうが!」


「うおっ!?お、おこんなって!大体俺小豆だけど小豆はそんなに好きじゃないからね?鯛焼き俺カスタード派だし!」


「お前の鯛焼きの好みなんざ聞いてねーんだよってそうじゃねーよ!!」


「だ、だからさっきから何よ!?」


ぐしゃり、とうねっている髪を掴む俺。話それてるそれてる、落ち着け、落ち着け俺。大体たかがアイスでキレているわけではない、アイスでここまでキレる事はまずない。


ふと小豆を視線を合わせる。



明らかに俺を見る目が変な人を見る目に変わっている小豆。その視線はたしか屋上にいた不良を見ているときの目だ。


イラッ。



――べちっ!



「いっったあああああ!?」


「あ、悪い、つい」


気付いたら俺はノーガードの小豆を平手で殴っていた。酷いわっ、と頬を押さえる小豆。


よくよく見れば小豆の唇の端が切れていた。あきらかに屋上に居るときはなかった傷だ。


はぁ、と俺はため息をつくとソファに座った。

機嫌の悪い俺を伺う…なんて真似をこいつがするわけもなく、隣に座ると小豆はまたアイスを食いだした。


「屋上から帰りました、で。お前は何しましたか、食堂とか行きましたか」


「食堂~?あー行った行った。んで最後あんまりにも腹立ったからばれないように神田に五円玉投げつけて帰ってきた」


珍しく楽しそうに笑う相手に俺は再度ため息をもらした。

やっぱ変な所から突っ込んでたし。五円玉投げつけるなんて小学生レベルの子とをよくもやったな。


ちょいちょい、と手をまねけば小豆は近寄ってくる。

そんな所は名前に沿って本当に猫のようだ。可愛げも糞もないが。


小豆の頭を掴み引き倒すと膝枕みたいな形になるが、意識するような相手でもないのでそのままがしがしと固い髪を乱暴に撫でた。


「うお、お、お、な、何急に?つか…痛い、毛根やばいんだけど」


「うるせーはげろ馬鹿」


「馬鹿はまだしもはげろはないよね、あれなんか同じような事変態にも言ったな…っい゛!?いだだだだだっ毛根から火出る火!!!!」


ゆるくがしがししていたがどんどんスピードをあげて更に乱暴にまぜる。

俺の前で変態という単語を出すな胸糞悪い。


で、俺と変態を掛け合わせるな!


「いたたた…まじではげてない?円形とかなってない?」


「なるか」


ばし、と頭を叩くと小豆は空になったアイスをテーブルに置き、ごろりと仰向けになった。



「あー……疲れた」


「お疲れですかお客サン。一本一万円コースイカガデスカ?」


「どこのソープだ、片言腹立つな」


あ、酷い。

けらけら笑う小豆にクッションを押し付け、まあ今日はサボるかと柄にもない事を思った。まったく、俺が疲れた。


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