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志摩視点
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ざわざわと騒がしい食堂の廊下を歩いている。
周囲からのきつい嫉妬と憎悪の視線もなんのそので進む秋。そしてその後ろを必死でついていく俺だ。
秋はこの視線に気づいているのだろうか、つか…気付いてないよな。
この視線に気付かないなんて天然もたいがいにしてくれよ!!!!
と、怒鳴れたらどれだけいいか。
「幸助ーおせー!」
「わっとと、ちょ、まっ」
人ごみをすいすいと掻き分け進んでいく秋。秋よりも随分後ろに居る俺に秋はじれったそうに手招きをした。
だけどな、俺は足かけられまくってるからそんなすいすい歩けないの。
すれ違う度に肩はぶつけられるわ非難はされるわ足はかけられるわ。
生徒会に守ってもらうのと守ってもらわないとではこんなにも度合いが変わってくるんだから生徒会って色々凄い。
(……それに。)
ちら、と少し前を歩く秋を見つめる。
(俺は秋みたいに…俺は俺だっっ他の奴等なんか関係ねぇ!!!…なんていえるほど強くないしな…。)
むしろなんでそんなに自分に自信が持てるんだろうか不思議だ。
俺はわからないけど、只秋が周りに溢れかえってしまう程の愛情を受けているからだろう。
食堂の中に入ると生徒会専用のテーブルに既に双子書記が座っていた。
双子は秋に気付くと大きく手を振ってくる。
で、その後ろにいる俺を見て顔を顰める。
俺の嫌われようも、なかなかに凄い。
「秋君~こっちにおいでヨ」
にこー、と笑ったのは双子の片割れ、高菜桜。
「こっちにおいでヨ~秋君」
にこっ、と笑ったのは高菜梅。
秋は顔で見分けているみたいだけど…はっきり言って顔はそんなにはっきりはわからない。声の雰囲気とか仕草とかで見分けはつくんだけど。
このことを友達に…まぁ今はもう友達いないんだけどさ、言ったらこのことは言わない方がいいって言われた。
たしかに…まぁ俺は興味をもたれるなんてないだろうけどさ、万が一持たれても困るから。
「梅ー桜ー!あれ、吟と揚羽は?緑もいないし」
俺の手をがしっ、と握った秋は俺を引きながらどんどん生徒会のテーブルのほうへ近づく。それに比例するように周りの非難が多くなる。
(ちょ、ちょ、ちょ、っ。)
そんな俺の心の叫びもむなしく、結局生徒会の前に引っ張りだされてしまった。
「秋ちんっ!!待ってたんだからあっ」
「うおっ!?ほ、穂波危ないじゃん!」
「い゛ッ」
どす、と美化の妹尾穂波が秋に抱きついた。
で、最後の呻きは俺だ。
妹尾先輩はちゃっかり俺の足を踏みつけていってくれた。
たんに踏むんじゃなくて、こう…ぐりりっ、、、と踏みにじる感じが黒い。
「「会長も副会長もすぐ来るヨ~」」
「痛っ!」
次に、俺を押しのけた双子。
肩が顎に直撃。
思わず出た声に秋が気付き、双子を怒った。
「梅っ桜!!俺の大事な幸助になにすんだ!」
俺の大事な、に反応する三人。
(や、止めてくれ……視線にこもる殺意が五割増だ…。)
「秋ちんは優しいよねえ~、僕秋ちん大好き!もちろんっ秋ちんの゛親友゛の志摩ちんも大好きだよ!」
「「そーそー俺達も大好きだヨ」」
「だってさ!よかったな幸助!」
「は、はは…ありがとうございます」
(もう頼むから土下座でもなんでもするからヤメテ!!)
妹尾先輩の魂胆はきっとファンの奴等に俺をいじめさせる魂胆だ。だから名前と大好き、と強調しようとする。双子もそれにのっかる。
でも、秋はそんな事に気付かない。
秋は優しいから、そんな事に気付かない。
大体…秋は…、っそりゃ好きだけど。親友……まぁ、いいけどさ…。
様々なものが言葉にならずにたた喉を下していくだけ。俺はそんな自分に嫌気がさしてくる。
ひそかに俺が傷ついていると、頭に衝撃が走った。
「どけ、なんでテメェがここにいんだ不細工」
「あっ揚羽!!」
ガッと真上からきた衝撃に俺はうずくまった。ただでさえたんこぶで頭がズキズキと痛むのに、追い討ちをかけるような痛みに眩暈がする。
瞬間、食堂が歓喜の叫びで一杯になった。
「「「「「きゃぁああああああ敷島様ぁああ!!!!!」」」」」
たのむから、俺をそっとしておいてくれ。
本日何回目かわからない祈りは、かなう事はなかった。
黄色い…ともいえない茶色が混じった声の中、対して気にする様子もなく席につく会長。
すぐに副会長も来た。で、俺を見て一言。
「秋に感謝するんだね、君が秋の友人でなければ君なんてとっくの昔に退学だ」
ぼそりと耳元で副会長の綺麗な声が響く。秋は会長に気を取られていてこちらに気づいていない。
暗に秋が離れたとき、俺は退学に追い込まれるということだろうか。
ぱ、と顔を上げれば生徒会もその周りも全員俺を睨んでいた。
「………っ」
胃が、痛い。
――心が…痛い。
秋とつるでいなかったらこんな思いしなくてよかったのに…。
でも、友達をこんな風に思うのはよくない。そう、よくないんだ。
「幸助?大丈夫か?どうしたんだ?」
心配そうに秋が俺の顔を覗きこんでくる。俺はすぐになんでもないよ、と笑顔を繕った。
秋は無理やり俺を隣に座らせる、俺の隣には妹尾先輩。
俺と秋の向かいに双子。
秋は自分の隣の副会長や斜めの会長と喋っていて気付かないけど俺はずっと嫌味を言われているんだ。
「ねぇ、図々しいと思わないのお~?志摩ちんはぁ秋ちんに似合わないよ?」
「俺等に近づきたいからって、秋君を利用するなんて」
「最低だよネ」
恨めしそうに顔を顰めたり、眉をひそめたり。
俺はひたすら俯いている。
隣にいるのに秋は気付かない。
だって副会長が気付かないように仕向けてるんだから気付くわけない。
周囲も俺への非難が強くなってきた。
守られる立場と、守られない立場。
「っ、っ、」
ぎゅぅう、、とズボンを握り締め瞼を閉じ、我慢する。
心ない言葉が俺をズタズタに引き裂く。だが俺にはまだ余裕がある、そう、まだ大丈夫、大丈夫だ。
(…なんで……こんな目にあわなくちゃ…いけないんだ…。)
つん、と鼻が痛くなってきた頃、それに気付いた妹尾先輩があざ笑うように口角を吊り上げた。
「みにくーい」
「アハハ、君のぉ、性格のほうが醜いヨ?」
「ひゃあッ!?」
「「「!?」」」
突然、俺と妹尾先輩の間から声が聞こえたかと思うと耳を劈くような妹尾先輩の悲鳴が上がった。
ざわっ、と一気にどよめく食堂。
俺は俯けていた顔を上げると目の前に可愛らしくちょんまげにした髪がひょこ、と動いた。
「さ、とう先輩?」
「だいじょーぶ舎弟ちゃん?今すぐこの気色悪い面したちび潰すから安心してていーよぉ」
ちょんまげに、赤い二本のラインメッシュ。
佐藤先輩が、妹尾先輩の柔らかそうな亜麻色の髪を鷲掴みにして引っ張っていた。




