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部屋にはいった赤井は勝手に俺の部屋に入ると何やらカチャカチャと物色しだした。
「ちょ、おいこら何やってんのー」
ひょ、と顔を出した俺。
しゃがんで棚を探っている赤井と目があった。
「赤井君ー君遠慮ってものをさあ」
人の棚探ってなにやってんだか。
どうやらこいつは止まるという行為をしらないらしい。
何?延々走り続けるの?暴走列車?
「てめぇ香水持ちすぎだろ」
棚の中に並べてある20個は軽くある香水を見て赤井が呟いた。様々な種類を揃えているそれはもはや一種の趣味の域だ。
実際普段私生活で香水なんてつけることはないんだが、入学してしばらくしてからつけるようになった。
「あー香水って人の印象変えるっていうでしょ」
「そうなのか?」
俺はその日会う相手によって香水を変えている。
ファンの奴等ならそいつらが好みそうな香水、人見みたいに生徒会や風紀、まぁおかかわりになりたくない奴と会う時はそいつらの嫌いそうな香水。
誰だって臭い奴には近づきたくないし、いい匂いするやつには自然と寄ってしまうものだ。
人見は甘いもの好きだから刺激的な匂いは好きじゃないだろう。
志摩はお菓子とか作るから匂いが染み付いて、まぁ寄られるんだよな。
副会長は爽やかなさっぱりした系が好き、逆に甘ったるい匂いは嫌い。
双子書記は甘いのも嫌だし爽やかすぎるのも嫌い、柑橘系しかあまり使わないらしいし。
会長は……よく知らない。だって嫌いすぎるからな。
美化はむせ返る程甘い香水が好きらしい。
吐くよね絶対。
「赤井君はどんな匂いが好きで嫌い?」
「あ゛?俺は少し甘いぐらいが好き、嫌いなのはつんっ、てくるやつ」
「そー、わかった」
これからはちょっと刺激的なものをつけよう。
俺は適当に収納ケースからパンツを取り出すと赤井に投げつけた。
「おーさんきゅ……ってテメェ!!!」
「何か?」
「おまっ、、コレッ…っはぁ…っ」
(あ、まずった!)
熱の篭った吐息を吐く赤井君に俺は一歩後ろに下がる。
俺が渡したのは丁度股間の中心に可愛らしいぞうさんが描かれているパンツ。
フリル付きだ。
少し前に冗談半分で誕生日にファン仲間から貰ったやつだ。
そんなの俺は穿かないし。
(あー…調子狂うな…。)
今まであった事のない人種に戸惑う俺。
誰にでものらりくらりとしてきたがこいつにはどこかぎこちない。
ひときしり興奮し終わったのか嬉々として風呂場にはいっていった。
シャワーの音がする。
俺風呂使っていいなんて一言もいってないんだけど…まぁいいか。
ソファでくつろいでいると携帯が鳴った。
それはファンように使っている携帯で、メールの文面を見て俺は吹いた。
「生徒会とD組が食堂でもめてるよ…D組?あー志摩かな」
(馬鹿ばっか……。)
生徒会は可愛い可愛い神田が志摩大好きなんだからもちろん志摩が嫌いなわけで。
色々とチクチクチクチク嫌味だっか言って精神的攻撃を繰り返しているわけだが…今日聞いた話だとD組の頭にその事が漏れたんだろう。
くっくっ、と肩を揺らしているとふいにいつも使っているシャンプーの匂いが漂った。
「何笑ってんだ」
「あ、あ?」
ふ、と視線を上げ赤井を見上げた俺はぎょっとした。
「おま…なんで腰にタオル巻いてんの?」
「あちーから。すぐに服着るの嫌いなんだよ」
「あー、そ……」
気まずげに視線を外した俺を不審に思った赤井は俺の腕を掴み無理やり視線を合わせた。
ちょ、ちょ、近いんだけど止めてくれるかな。
「なに」
「あーあーあー……あのね、俺は男だけどもね、その…なんつーの?色気?むんむん出すの止めてくんないかな気持ち悪いんだよね」
そう、風呂上りで火照ってる体とかぺったんこになった髪だとか切れ長な目だとか、性癖と性格を無視すればいい男なんだよ。
つまりね、むんむんさせないでって話。
決して気持ち悪くはないんだが眼のやり場にこまるというかなんというか。
気持ち悪い、にカチンときた赤井は俺をソファに押さえつけるといやらしく笑った。
「?」
「悪ぃな、俺もやられてるばっかじゃねーんだわ」
「はい?」
ぴく、と赤井の耳が動いた。
耳って動くの!?
俺が顔を顰めているその時。
「猫田君生徒会とD組がっ…ねこ、た…くんんんんんんっ!?」
ファン仲間の一人、見上君が勝手に部屋のドアを開けた。
(あ、鍵しめんの忘れてた…って…赤井このやろおお!!)
ね…猫田君…、と小さく呟いた見上君。
顔を上げると赤井がニヤァ、と笑っていた。
こいつ…どうやら耳がいいらしい。
俺には聞こえなかった足音は赤井君には聞こえたようだった。たらたらと冷や汗をかく俺。
見上君からみたこの図は多分、腰にタオルまいただけの色気むんむん男とソファに押し倒されてる猫田君…もしかしてお邪魔?な図だ。
(勘弁してくれよ本当…。)
しかしここは俺、なんとか切り抜けようよ。
俺はわざと体を震わせ、目をうるませ赤井を見上げて、そのまま見上君に視線をやった。
今はわからなくてもいつかはこいつがD組の赤井だとばれる。なら、今のこの状況と食堂で馬鹿やってる奴等を絡ませようじゃないか。
バッ、と雰囲気を変えた俺に赤井は目を瞬かせていたが、下で震える俺を見て何を勘違いしているのか舌なめずりをした。
悪人面の赤井でよかったよ、うん。
俺はいかにも、なファンの奴等にもだした事のないような声でか細く呟いた。
「見上く…助け、て…」
瞬間、見上君の目が見開かれ、俺の上から赤井君の体がふっとんだ。
「ぐっ!?」
「猫田君!!!僕の可愛い猫田君に触らないで!!!」
ガッ、と赤井を蹴り飛ばした見上君は震える俺を抱きしめると赤井に向かって怒鳴った。
これにはまさかの俺も驚愕だ。
160ちょっとしかない小柄の可愛らしい少年に、180は軽くある赤井が蹴り飛ばされた。
てか俺抱きしめられてるよね、え、見上君のじゃないけど俺可愛くもないけど……見上君?
よくよく見れば見上君も少し震えている。
自分も怖いはずなのに勇気を出して俺を助けてくれている、俺はその事実にちょっと感動した。
というのは嘘だ。
(いやいやここは笑っちゃいけないな、ここを笑うと俺の株がごごーんと落ちる。)
くりっくりの目をキッと吊り上げて怒る見上君。これはね、まぁ少しきゅんっときましたよ。突っ込まれてても男だもんね、そりゃ力はあるよね。
しかしそこは喧嘩馴れしているであろう赤井、すぐに立ち上がると俺を細く白い腕で抱きしめる見上君を睨みつけた。
可哀想なくらい体を跳ねさせる見上君、しかしそこは意地なのか悲鳴は上げなかった。
(まぁ…しかたないな。)
俺は見上君の腕を少し苦しいから、と下げてもらう。
それでもまだ俺を抱きしめているのだから凄い。
ゆっくりと赤井を見つめる俺、目があうと赤井はキッ、と睨んできた。
赤井の事だから(公開プレイかテメェ…ここまで俺を追い詰めるなんて…すぐにイッちまいそうだ…)なんて事を考えているのは丸わかりだ。
勘違いしてくれているならそれでいいか、と俺は思いすらすらと喋った。
「急にノックがあって……それ、で…急に入ってき、て……」
カタカタと震える俺。
「かんっ、神田く、んの友達って…誤解、されてっ…久木先輩の、命令だかっらって!!」
「っ酷い!!!猫田君は優しすぎるよ…神田なんかっ神田なんかっっ」
憎い、とでも言うような口ぶり。
簡単だ、簡単すぎる。人の好意や悪意はこんなにも簡単に操れるんだから。
でも俺はそれをしないからこうやって、普通の人でいられる。
「見上君…ありがとう、もう大丈夫…神田君の事、悪く思わないで、ね?久木先輩が少しいきすぎただけだから…」
「猫田君…猫田君がそこまでいうなら…」
わかったよ、と頷いた見上君に満足した俺は赤井に視線をやった。
唖然としている赤井、そりゃな。
ここまできちんとした猫被りの俺を見た事がないんだからそうなるでしょうよ。
「僕は大丈夫だから…少し出て行ってくれるかな、」
「でっでもあいつ!!」
「大丈夫だよ、大丈夫」
ふ、と優しく微笑むと見上君は渋々、本当に渋々と部屋を出て行った。




