AI
よろしくお願いします。
各回2000字以内で、収めようとしています。
一体、いつ頃からだろうか。私が物心ついた頃には、わからないことがあれば、指先一つで知ることができた。誰でも博識になれた。
最近になってAIが進化を続けているとニュースで知識人が言っていた。
一体、いつ頃からだろうか。知らない間にAIを誰もが手に持っていて、私たちが知らないことを話しかければ、教えてくれた。
「ねえ、最近彼が私のことを無視するの。どうすればいいの?」
『はい、彼はどんな方ですか? 入力してください』
「性別:♂。性格:マイペースで照れ屋。少し気難しい」
『ありがとうございます、では、今は何をしていますか?』
「ベッドで寝ている」
『では、起こさずに一緒にそばで寝るのはどうでしょうか?』
AIは、何でも知っている。その通りにすれば、私は彼と一緒に寝ることができた。そばに寝ると彼の小さな寝息が聞こえてきた。とても愛らしくて嬉しくなる。
彼は、暖かくそばにいると落ち着いて、私も彼と同じ夢の中に入っていった。
朝起きると、彼は私のそばにはいなかった。やっぱり彼は、私に冷たいようだ。
カーテンの隙間から朝の強い日差しが私を照らしていた。私は、目を細めた。
すると、彼は、ぼんやりと小鳥を見ていた。何を考えているのだろうか。
たまらず私は、AIに話しかけた。
「ねえ、彼が外を見ているんだけど、どうしたのかな?」
『はい、おはようございます。彼はあなたと外に出たいと思っているのではないですか? ピクニックなんていかがでしょう』
「ピクニックか〜。どうなんだろう」
私の声が聞こえたのだろうか。彼は、私をちらっと見るように様子を伺った。
その様子を見て私は、重い腰を持ち上げて、ピクニックに行こうと思い立った。
「よし、行くか〜!!」
AIは何でも知っている。ピクニックは正解だった。彼は、海でまるで子犬のように走り回ってから私の横に座って沈んでいく太陽を一緒に見てくれた。
「さあ、暗くなる前に帰ろうか」
私がそういうと、先行ってるぞ、とでも言いたげに、彼は車の方に歩いていた。でも、私が付いてきているのかと気になってしまうのか、数歩進んで後ろを見て私を確認する。
そんな彼を見て、私はすかさずAIに訊ねた。
「彼は、ツンデレなのかな?」
『そうかもしれません。彼はあなたのことが大好きなのでしょう』
「ほんとかな〜」
彼の様子を見るに、それが本当なのではないかと思えてきた。やっぱり、AI
は何でも知っている。
今日仕事で大ポカをやらかした。重要なアポをダブルブッキングさせてしまった。先方にお詫びを入れて、最悪の事態は避けられたのだけど、それでも拭いきれないほどの損失を被ったと上司に大目玉をくらった。仕事をやめろとまで言われた。
暗い夜道は、私の心と同調しやすい。静まりかえれば、なお、同調しやすい。
堪らず、私はAIに聞いた。
「今日上司に怒られちゃった。どうすればいいかな?」
『誰でも失敗はあります。次にどうするかが重要なのです』
「私が求めている答えじゃない」
『すみません。…………』
AIは、それ以上に何も言わなくなった。
家に着いた。靴を脱ぎ捨て、鞄を投げ捨て、電気も点けず、化粧も落とさずに暗い部屋で堪えきれずに涙が溢れて来た。
泣き始めると、彼があの日の海の時のようにちょこんと行儀よくそばに座ってくれていた。
「今日は、優しいね。こういう時だけ優しいのはずるいよ」
彼は、何も言わない。ただ、ずっとそばで寄り添ってくれるだけだった。でも、それが私の求めている応えだった。
しばらく泣いていると、彼の頭が寄りかかって来た。そろそろ泣きやめよ、と言ってくれていたのかもしれない。
言葉がない彼だけど、その行為がとても嬉しくて、思わず彼に抱きついていた。今日の彼は、私から逃げることはなかった。
そのままベッドに行き、彼は珍しく私と寝てくれた。
朝起きると、いつもはいない彼が私の隣にいた。彼の優しさが見えた気がした。私は、愛されているのだと感じた、AIの言う通りだった。
「おはよう。ずっとそばにいてくれたんだね。ありがとう」
私の言葉で目を覚ました彼がゆっくりと目を開けて私の顔を見ると、鋭い顔つきになった。
「グルルルル——。ワン! ワン!」
低く唸り声をあげて吠えた。
無意識のうちに、私はAIに聞いた。
「何で彼は怒っているの?」
『昨晩、お化粧を落とし忘れていますよ』
——やっぱり、AIは何でも知っている——
またお願いします。