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code:00「プロローグ」

挿絵(By みてみん)

この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地と、その名前は架空のものであり、土地、名前、人物、または過去の人物、商品、法人とのいかなる類似あるいは一致も、まったくの偶然であり意図しないものです。

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 ぶ厚い雲がゆっくりと月を覆い隠し、天空そら一面を深い暗晦あんかいが包みこんでいく。人目を忍んで蠢うごめく妖怪あやかしのほかは眠りの淵につき、虫の音だけが辺り一面に鳴り響いていた。


『北広島きたひろしまサイエンスシティ』――そこは工場や研究機関が軒を並べる、郊外に誘致された工業団地である。物語の発端は、その一角にある“とある研究施設”から始まる……。



 秋の大型連休シルバーウイークの最中といったこともあり、夜半も過ぎたその施設はどこも暗く静まり返っている。そんな誰もいないはずの地下駐車場に、黒いフードを目深に被った男がひとり、どこからともなく姿を現した。


 腰まである大きなスーツケースを引きずりながら、男は隅に置かれたステーションワゴンに向かって歩を進めていく。ハッチバックを開き、見るからに重そうなそれを慎重にトランクルームへと運び入れる。


 運転席に乗り込んだ男は、直ぐさまエンジンを廻す……と次の瞬間、強い光が彼の横顔を照らした。


「……そ、そこにいるのは、どなた……ですかぁ⁉」


 静寂を破った突然の声に、ハンドルを握ったまま男は身体を硬直させる。光の源では緊張した面持ちの警備員が及び腰で立っており、窺いがちに不審車両へと明かりを向けていた。


 手にしたフラッシュライトで車内を照らしながら、後方から注意深く回り込んでいく。もう片方の手には、腰のホルスターから抜いた回転式拳銃“S&W M36チーフスペシャル”がしっかりと握られている。


「前の巡回には、こんな車はなかった……よな? いったいどこから?」


 警戒心を緩めることなく、運転席を覗き込む警備員。彼の持つライトが、まともに男の顔を照らした。


「……ん? あんた、総務の草薙くさなぎさん?」 


 見知った顔に、警備員の緊張が一瞬綻んだ。


「はぁ~、びっくりした……なに、どうしたの? ここの社員さんたちは、みんな休暇中じゃないの?」


 目深に被ったフードを脱ぎつつ、軽く会釈する男。次の瞬間、車のドアを勢いよく開け放つ――いきなり突き飛ばされた警備員は、もんどりを打ちながらコンクリの床へと倒れ込んだ。


 急いでドアを閉め、間髪入れずアクセルを目一杯に踏み込んでいく。転倒した警備員を置き去りにしたまま、男はステーションワゴンを急発進させた。


 場内にスキール音を響かせながら、それは地上に向かって猛スピードで走り去っていく。


「くっ……こら、待てー!」


 立ち上がる暇もいとわず、手にした拳銃をワゴン車へと向けると、警備員は躊躇うことなくその引き金を引いた。


 駐車場内に轟く銃声……しかし、そんな態勢ではテールから破片を飛び散らせるのがやっとで、ワゴン車を停止させることなど出来るはずもない。


 男の駆るステーションワゴンは、みるみるうちに視界から遠ざかっていく。急いで起き上った警備員は、それを眼で追いながら近くにあった非常ベルに駆け寄り、そのボタンを叩き割る。



 地上四階建ての建屋全体に、警報がけたたましく鳴り響いた。その途端、各階の廊下に明かりが点り、施設内がにわかに騒がしくなる。


 間もなく応援に駆けつけた数人の警備員たちが、二台の警備車両に分かれて乗り込んでいく。いざ逃走車を追おうとしたその時、異変に気がついた者が声を上げる。


「駄目だ、タイヤがパンクしてるぞ!」


「くそっ、こっちもだ!」


 見ると残っていた警備車両のタイヤがすべて、“目打ちのような物”で穴を開けられ変形していた。


「……やられたな」



 爆音を響かせながら、ステーションワゴンは勢いよく地上に飛び出していく。建屋に沿って敷地内を回り込むと、男は正面ゲートに向かって車を走らせた。


 最後の角を曲がった視線の先に、守衛室のゲートバーが見えた。慌てて飛び出す警備員のシルエットが、ヘッドライトの強烈な光に浮かび上がる。


「止まれーっ!」


 迫り来る暴走ワゴン。それへと真っ直ぐに向けられたM36の銃口が、警備員の怒号と共に火を吹いた。着弾した右側のヘッドライトが割れ、破片を受けたフロントガラスに亀裂が走る。


 それでも速度は衰えをみせず――否、かえって加速を増したかように、車は猛スピードでゲートへと突っ込んでいった。


 警備員の制止を振り切ったワゴン車は、ゲートバーをも突き破って公道へと躍り出す。その衝撃で、トランクルームのスーツケースが天井まで跳ね上がった。


 ルームミラー越しにそれをチラッと認めた男は、再び視線を前方に向けアクセルを踏み込んでいく。


 エンジンの咆哮を響かせながら、彼らを乗せたステーションワゴンは深夜の街中へと走り去っていった。その間、ほんの四、五分の出来事であったという……。



         ☆



『夜分に恐れ入ります……会長、今よろしいでしょうか?』


「ええ、こんな時間にどうしました?」


『北広島から緊急の知らせが入りましたので、取り急ぎご報告を……と』


「またカミヤテックですか……なにかと問題が多い部署ですね。それで、何がありました?」


『かねてより、施設内で保管されていた例の検体ですが……先ほど、侵入者によって強奪されました』


「例の検体というと……“NO.0ノーナンバー”が奪われた⁉」


『はい。強奪された検体は、陽之巫女ひのみこの遺伝子より創造つくられた“ヴァグザの堕巫女おちみこ”に相違ございません。なにぶん、施設は休業中で管理の者は不在。予期せぬ深夜の犯行で、現在もかなり混乱した状況が見受けられます』


「それで、“彼女”を奪っていった者の身元は判明しているのですか?」


『はい、逃走を目撃した警備員によりますと、二ケ月ほど前に石狩いしかり庁舎から総務部へと出向してきた、“草薙くさなぎ誠まこと”という名の男性であった……と』


「庁舎から? 元、役人の犯行ということですか?」


『犯人の出自自体、事実かどうかはわかりません。そもそも堕巫女の件は、カミヤグループ内でも最重要機密の扱いですので……」


「確かに、堕巫女の情報がどこから漏れたのか……? それが一番の問題ですね」


『はい、“NO.0”は施設内でも限られた者にしか出入りできない管理棟にて隔離され、厳重な監視下におかれていました。この度の件、管理者の不在時を狙った計画的な犯行と推測される以外、今のところ確かな情報がございません』


「そうですか……しかし、この時期に堕巫女が奪われたとあっては、こちら側としても何らかの手を打たなければなりませんね」


『はい……この一件、御館おやかた様にはどのようにご報告を?』


「堕巫女の存在が『丹波御所たんばごしょ』に知られること自体、あまり好ましくありません……これを機に、彼女の身柄をこちら側で確保できれば問題はないでしょう。我々にとっては、逆に好機と見た方が良いかもしれませんね」


『はい、承知しております。手筈が整い次第、実行に移させていただきます』



「犯人は、“草薙誠”と言ったか……? どこか聞き覚えのある名前だが……はて、何者だっただろう?」

『ご意見・ご感想』は、私たち創作者にとって何よりの励みと意欲に繋がります☆

なにかしら感じて頂けましたら、是非とも『ご意見・ご感想』をよろしくお願いします<(_ _)>☆

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