表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【短編】ちょっと変わった異世界転生シリーズ

ゆとり女神

作者: 烏川 ハル

   

 あら、いらっしゃい。あなたが、今日のお客様ね。

 あなた、びっくりしたような顔してるわね。

 まあ、無理もないかな。

 あなた、死んだのよ。トラックに跳ねられて。


 フフフ……。

 トラックですって。

 そんなステレオタイプな死に方!

 もう笑うしかないわね。


 え? 交通事故の統計? 免許更新のビデオで見た? トラック事故は死亡原因の上位ではない?

 知らないわよ、そんなの。

 珍しい死に方だって、ステレオタイプになるのよ。

 第一、私の言ってるステレオタイプは、異世界転生のことよ。


 い・せ・か・い・て・ん・せ・い!


 あなただって、WEB小説で読んだことあるでしょう?



 ……あら、そう。「読んだことない」ですって?

 でも『WEB小説』の存在くらい、知ってるわよね。

 最近アニメやドラマの原作にもなってる、あれよ。

 そのWEB小説における一大ジャンルが、異世界転生。

 死んだらファンタジー世界で面白おかしく、ってやつ。


 え? 「『死んだら驚いた』なら知ってる」ですって?

 バカ言ってんじゃないわよ。それは昔々の映画でしょう。

 そんなの、WEB小説世代は知らないわよ。私は女神だから知ってるけど。


 あら、そこで驚くの?

 そう、私は女神。

 女神と言っても、ネットで見かけるアレじゃないわよ。素人なのに有名人ぶって、セミヌードを披露して「もっと、もっと!」言われて、得意満面な若い女性たち……。

 そうじゃなくて正真正銘、本物の女神よ!


 ……なんてジョークも、あなたには通じないのよね。

 WEB小説すら知らないのに、ネットスラングの『女神』なんて知るはずないだろうし。

 え? 知らないからこそ勉強になる? 「もっと教えて欲しい」ですって?

 そんなこと覚えてどうすんのよ。現世の知識なんて、もう役に立たないわよ。あなた、これから異世界へ行くんだし。

 生前の知識で異世界無双するにしても、さすがにネットスラングは活かせないんじゃないかしら。


 まあ、いいわ。

 ちょっと話が、脇道に逸れすぎたから戻しましょう。

 そう、私は女神。

 人々の転生をつかさどる女神よ!


 え? 転生ならわかる? 輪廻転生? 「あの世へ送られた魂が、生前の徳に応じた形で、この世へ舞い戻ってくる」ですって?

 いつの時代の死生観よ、それ!


 ……まあ、でも、そうなのよね。

 私も元々は、そういう厳格な女神だったのよ。こんなチャラチャラした格好でもなく、派手な髪色でもなく。

 言っとくけど、これ、最近の『異世界転生』のイメージに合わせて、わざわざ染めたのよ。上からのお達しで。

 ほんとは私だって嫌よ、こんなアニメキャラみたいな髪色!


 そう、昔は良かったわ。

「あなたの転生先は動物です」

 とか、

「あなたのような罪人は、虫ケラになりなさい! これも修行です!」

 とか、

「素晴らしき人生を歩んできたあなたは、もう一度、人間として生まれ変わりましょう」

 とか。

 それぞれの現世での行いに応じて、おごそかに、転生先を伝えてきたんだけど……。

 もう、そういうのはダメになっちゃったのよねえ。



 あなた、ゆとり教育って言葉は知ってる? あなたは、もっと古い世代よね?

 最初は「詰め込み式の教育は良くない」みたいな、立派な理念だったらしいけど……。

 私も「受験戦争における偏差値重視は間違っている」というのは理解できるわ。でも、それが「つまり過剰な競争は良くない」となった時点で、

「それ、論旨のすり替えじゃね?」

 って思うのよね、私。

 ともかく、いつのまにか「競争は良くない! 子供にはストレス! だからみんな平等に! 運動会はみんなが一等賞!」って教育方針になった……。そんな噂を耳にしたわ。

 まあ女神の私は、実際にゆとり教育なんて受けたわけじゃないから、実態は知らないんだけどね。


 しょせん人間界のゴタゴタだし、対岸の火事とか高みの見物とかの気分だったわ。

 でも。

 この「みんな平等に! みんなが一等賞!」って話。

 そうした時代の波が、とうとう女神の世界にも押し寄せてきたの!

 

 そうは言っても。

 音楽を司る女神とか。

 美を司る女神とか。

 いくさを司る女神とか。

 あの辺は、まだ大丈夫みたいだけど。

 でも私のような、転生を司る女神。いわゆる転生課。

 ここに、女神監査機構からクレームが来たのよ!


「転生先が不平等すぎる!」

「もっと平等にしろ!」

「対象者の要望を受け入れろ!」


 これに対して、どう対処しようか。

 女神会議で、具体案を出し合って、あーだこーだと揉めてるうちに……。

 今度は、

「お前たちで処理できない案件ならば、こちらから細かい指示を与える」

 って言われちゃって。

 その結果。

 天国よりもラクできて、地獄よりも刺激的な、ファンタジー世界。

 そういう異世界の住人として転生させろ、って命令が下されちゃったのよねえ。


 だから今、ちょっとした異世界転生ブームってわけ。

 これも、ゆとり教育の賜物よ。

 しかも「刺激的なファンタジー異世界でラクに生き抜けるように、転生者には特別な能力とかアイテムとかを付与しろ」ですって!

 もう、ほんとゆとり!



 ……それで、あなたは、どんな異世界へ行きたい? どんな特別な能力やアイテム、お望みかしら?




(「ゆとり女神」完)

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ