第六話:試験前夜
書き貯めた分です。六話に修正しました。
エルノイア王立高等学術院。
歴史ある建物は今の王城が建てられる前まで王城として歴代の王族達が暮らしていた、由緒正しき城だったのである。今は増改築され、王立高等学術院として使用されている。
入ってすぐの所に受付があった。前までいくと、「ようこそエルノイア王立高等学術院へ。」と言う、教師と思しき男性に挨拶する。
「こんにちは、私今回受験致しますアンビルと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
「ご丁寧にどうも、私は試験を補佐するコリンスと言います。どうぞよろしく。」
手を出してきたので自然に握手する。コリンスはアンビルの手を握るとビクッとするがゆっくりと手をはなし、「それではアンビルさん、推薦状はお持ちかな?」と、尋ねる。
「はい、こちらに。」
推薦状を確認し、「分かりました。それではその黄色いシグナルに付いていって下さい。今日宿泊する部屋に案内してくれます。食事は9時までに大食堂で食べて下さい。今日はもう建物から出られませんので注意して下さい。」
「分かりました、ありがとうございました。」
黄色く点滅する光を追いかけると三階にある扉の中へ入っていったので、ノックをして「失礼します。」と、扉を開けると個室になっていた。光はどっかに行ってしまったのか。
部屋は縦長で幅は狭い。ベッドの横など通るのがやっとだ。突き当たりに机と椅子があり、ベッドに背中向きでタンスが置いてある。とりあえず着替えを収納しておこう。
机の上には建物の地図と受験の注意書きと鍵がおいてある。今日は早く休みたいので早速食事に行こう。
地図を確認して食堂へ向かうと体育館ほどありそうなホールにたどり着いた。ここが食堂みたいだ。
昔は晩餐会など開かれていたのだろう、大きい蒲鉾型のホールに整然とテーブルが並んでいる。
ざっと三百人は座れそうだ。三分の二は埋まっている。同じ年齢の者がこんなに沢山集まっているのを見るのは初めてなので、少しビックリする。
プレートを手に取り列に並びしばらくすると、通り過ぎる時に「あっ、失礼!」と、言ってぶつかって来る女の子がいた。
アンビルは王都でもちょっとした有名人なので、早速ちょっかいを出してきたのだろう。同じ制服を着たグループが向こうでニヤニヤしている。
当たる!周りの受験生たちがそう思った瞬間、前後に並んでいた男の子が「「危ない!」」と、前の一人がぶつかってきた体を止め、後ろの一人は夕食満載のプレートを押さえた。
四人は動きを止め、
「ええ、ええ、大丈夫よ、ごめんなさい。」
「気をつけたほうがいいよ。」
「危なかったね。」
「そんなに沢山食べられるんですか。」
周りを含めアンビル以外全員固まる。
「私も結構食べるほうですけど、そんなに沢山は無理だから、すごいなと思って。」
アンビルにぶちまけるつもりで満載していた夕食のプレートである。育ち盛りの男子でも食べきれない量が載っていた。
さらに固まる女の子。
「プッ!」「ふふふっ」「ははははは」「ふははっはっ」
満載プレートを持つ女の子の周りが大爆笑に包まれる。
彼女は真っ赤な顔をして離れていった。
「えっ、えっ」一人取り残され、なぜみんな笑っているのか分からないアンビル。
「面白い人だな、君は。僕の名前はアラニス、王立騎士学園卒だ。」
「僕の名前はマルーン、王立魔法学園首席卒業だ。」
「えっと、初めまして。私はイーシトンの私立カーメルン学園卒のアンビルと申します。」
アンビルが名乗る時、二人の男は鋭くお互いを睨むが、アンビルは当然気付かない。
「こんなところで止まっていたら迷惑だから向こうで一緒に食事しないか。」
アラニスが提案する。
「そうだね、お互い情報交換しよう。」
マルーンが乗っかり、
「私ミルノ、乗ったわその話。」
突然後ろから女の子が入ってきた。
「あの、えっと。」
アンビルおろおろする。
「いいじゃない、楽しくご飯食べるだけなんだから。」
ナイスミルノ!男子は心の中で叫ぶ。
「さあ、そうと決まったら食事取りに行きましょう!」
ミルノにずるずる引っ張られていった。
「私だけ自己紹介が足りないわね。わたしはミルノ。王立神学館卒よ。」
女子2、男子2で向かい合ってテーブルについている。
「見事にバラバラだな。王立三大学園に王都外から一人か。」
しみじみ話すアラニス。金髪碧眼ハンサムでいかにもエリートって感じか。
「ま、明日試験なんだ。今更ジタバタしたって一緒さ。」
マルーンは余裕の表情。茶色の髪を肩まで伸ばし、少し神経質そうに前髪を指で弄っている。全体的に線が細く、優男って感じか。
「でも、学術院の先輩方から試験の情報とか仕入れてるんでしょ。」
仄かにシルバー掛かった青の髪にボンキュッボンのスタイルのミルノ。美人でエロい感じか。ちょっとカッコいい。
「このフォーク使いやすいですね。」
会話よりフォークに気をとられるアンビル。当然夜の食堂でもキューティクルの輪は不自然なほど主張している。
「アンビルちゃん、随分余裕だね。何か隠し球でもあるのかい?」
マルーンが振ってみる。
「何言ってんの、アーレム商会の一人娘よ、とんでもない隠し球持ってるに決まってんじゃないの。」
ミルノが釣れる。
「確かに。アーレム商会なら未発見の魔法具とか簡単に準備しそう。」
アラニスも釣れた。なんかこの二人はノリが似ている。
「ご馳走さまでした。私は推薦状以外着替えしか持ってきておりません。先生方が必要ないと仰るので。」
食器を片付けに行こうとするがミルノに手をつかまれる。
「待ってアンビル、あなた杖も持ってきてないの?体術とか?それとも召喚術?」
グイグイ来る。スタイルいいなーとのんきに思いながら、
「いいえ、魔法とか剣術とか、いろいろ試してはみましたが、何か秀でた特技がないんです。」
マルーンが睨み、
「どういう事だい、研究部門だとしても研究成果を持って来るだろ。」
まさか、このエルノイア王立高等学術院にコネで入る気か。アーレム商会なら可能なのか。それはそれで、別の意味で凄い話ではあるが。
国中から尊敬を集めるアーレム商会がそんな事する筈はないが、アレムの親バカは有名であるからまさかという線も。
「すいません、何か用意しますかって先生方に聞いたんですけど、先生方からは大丈夫だから、あなたは聞かれた事に答え、言われた通りにすればいいから、と。」
何だそりゃ、どうやって合格する気だ。どっかおかしいんじゃないか、そいつら。まだ、アーレム商会のコネの方が現実的に思えてくる。
「ねえ、大丈夫なの、それで?」
ミルノは本気で心配してるみたいだ。
「わかりませんが、先生方を信じて最善を尽くします。私はこれで失礼します。お休みなさい。」
アンビルは席を立って帰って行った。
「どう思う?」「いや、普通に無理だろ、馬鹿げてる。」「でも、本人至って本気みたいだったし。」「カーメルンだっけ、聞いた事もない学園。分かってないんじゃないの、この王立高等学術院の試験の事。」「でも、合格者がでただけでも名誉なこの国の最高学府よ、知らないはずないじゃない。」「う~ん。」
試験前夜にご苦労な事である。三人が引き上げる頃、お風呂に入ったアンビルはベッドに潜り込む。
この夜は朝顔の観察日誌を逆に戻り読む夢を見たアンビルであった。
行間を詰めました。