第四話:ソーンな街ぶらする日
短めです。
王立高等学術院入りを明日に控え、今日は街ぶらである。
やはり人が多い王都は色んなお店があって見て回るだけで楽しい。
ティファラを伴って食い倒れさながらに飛び回っている。
当然身なりの良い子女二人がうろうろしていれば、悪い輩も目をつける訳で、何組かちらほらと寄って来ていた。
「次はあの屋台に並びましょう。」
手当たり次第に食べようとするアンビルだが、
「申し訳ございません、お嬢様。少し休ませて下さい。お腹がはち切れそうです。」
ティファラから泣きが入る。
「大丈夫、甘いものは別腹って言うでしょう。」
「いえ、その別腹もはち切れそうで。」
などとベタなやり取りをしながら列に並んでいると、その列を横切るように男が通りを歩いてくる。
ギーチと言うこの辺を仕事場にしているスリである。まだ現行犯で捕まったことはなく、今日だけで7人からスっている腕は一流だった。
狙いすまし二人に近づこうとした時、ぶちっと音がして足下を見ると靴紐が切れている。
しゃがもうとした瞬間横の路地からぬっと突きだしてきた材木に下げた頭を打ち抜かれて意識を失う。
「ありゃー、兄ちゃん大丈夫かい。」木工職人は声をかけるが意識は戻らず。
何か身元のわかるものと上着をまさぐれば、出てくる出てくる財布の山。意識を失ったまま憲兵に連れていかれるのであった。
街を見て回り、大通りから一本裏手に入った時、背後からここぞとばかりに駆けてくる二人組がいた。
この界隈を縄張りに持つウタルノファミリーの指名手配中の若手コンビ、ソールとピルリだ。狙うはアーレム商会の一人娘。身代金がいくらになるか想像もつかない。
今日は変な1日だった。見知った顔が何人もあの娘の近くで倒れたり捕まったりしてる。
なのに、あの娘は気付いてもいねえ。
一日中つけ回してやっと手に入れたチャンスだ。絶対さらってやるぜ、と、踏み出した瞬間突風が吹いた。ソールもピルリも思わず立ち止まり目をつぶる。そこへ突風で煽られて建物のベランダからプランターがどストライクに落ちてくる。
もろに頭にくらい、どぎゃっ、へぶっ、と、奇妙な声をあげてぶっ倒れた。当然意識はない。後はお決まりである。
結局、誰一人指一本触れるどころか、当人に気付かれる事もなく犯罪者達は撃沈していった。
この日の憲兵隊は大忙しで、何年振りかに犯罪者を大量検挙するのであった。
勿論、その何年前の大忙しもアンビルの街ぶらが原因なのだが、その関係性には誰も気付かない。
ソーン現象と言うべきでしょうか。ティファラは気付いていた筈です。