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第十話:困惑するお嬢様

ありがとうございます。十話に修正しました。


 「おめでとうございます、アンビルお嬢様。」


 「ありがとうございます。」


 「おめでとうございます、さすがアンビルお嬢様だ。」


 「ありがとうございます。」


 街を歩けば知らない人から次々と祝福の声をかけられる。なんだか心苦しくなってきた。


 試験に合格しただけなのに、街中の人が祝福してくれる。そんなたいした事ありません。と、叫びたくなってくる。


 事実、ファイヤーボール1発撃っただけである。


 アンビルはこの事実を重く感じながら鬱々と歩いていると、何かを読み上げるような声が聞こえてきた。


 「なんだそれは何にも出来ない小娘かなどと詰られ追い詰められ絶体絶命かと思われたその刹那、只のファイヤーボールで構いませんわ。すっくと立ち上がり呪文を唱えてえいっと放てばドカンボカンと標的処か背後の壁まで破壊するアンビルお嬢様必殺の一撃だ。並み居る試験官達は腰を抜かして驚くが流石は院長、合格だ私の目に狂いは無かったと手に手をとっての大絶賛だ。お先に失礼致しますありがとうございましたと一礼し立ち去るお嬢様、外に待たせた馬車に乗って颯爽と立ち去るのであった。」


 拍手喝采である。いや、大喝采である。


 「いいぞ、流石はアンビルお嬢様!」「いやー!」「よっ、お嬢様!」「すっとしたー!」「お嬢様素敵~」「カッコいい~」などおひねりが飛びまくる。


 「はああああ?」


 アンビル、不覚にも声を出してしまう。


 必殺の一撃がファイヤーボールってなんなのですか。


 「多少の脚色は吟遊詩人ですので。院長先生は持ち上げておりますので問題ないか、と。」


 またも横からティファラが出来る秘書のごとく告げてくる。


 「前半の山場になる誘拐犯撃退も大変凛々しゅう御座いました。」


 絶句。まさに絶句である。


 完全密室の中の出来事をある程度でも把握しているのも驚いたが、昨日の今日である、まさかそんな。


 「私、詩に吟われるなど初めてで、大変感動しております。」


 あなた、あなたなのね。アンビルがキッと睨むと、


 「私とお嬢様のやりとりなど、流石は王国一の吟遊詩人ですわ。」


 うっとりと語るティファラを見て何も言えなくなってしまった。


 違う、アーレムだ、きっとアーレム商会が悪いんだわ。


 勿論その通りである。


 王国一と言われる彼を三日前から早々と招聘し、昨日一晩徹夜で覚えさせたのである。


 さらに彼と提携を結び、王国全土のアーレム商会を回る契約まで結んでいた。客寄せなどではなく、従業員達の熱望による吟遊詩人への公演依頼であった。


 ただただアンビルお嬢様の合格活劇?を見たい聞きたいという、あまりに純粋な願いだった。

 後々、各店舗に引っ張りだこで、アンビルお嬢様慰問の次に人気を博す事となる。アーレム商会内外に手抜かり無しであった。


 このアンビル合格物語は彼の代名詞ともなり、何年経っても二日に一度はリクエストを受ける十八番となるのである。


 もういいわ、諦めた。進学するのもこれで最後だし、名誉な事だと思い込もう。


 全てアーレム商会従業員一同の渇望のままに進行していくのであった。


 その後、王都民のための都民ホールのような場所で、最後のアンビルお嬢様独演会が開かれていた。


 何故パパロッティにここで歌わせないのか、企画者を問い詰めてやりたい。


 朝昼夜と満席で、最後の今回は立ち見もでている。


 『アッンビル、アッンビル』


 今回も最後はアンビルコールである。


 袖に控えるティファラに視線を送ると、無言で首を横に振る。


 サクラなし、ですって?


 むしろそちらの方が恐ろしい。この熱狂ぶりは何なのだ。


 下がる事も出来ず「ありがとうございます、ありがとうございます。」などと機械的に手を振るアンビルであった。


もうすぐクライマックスです。

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