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プロローグ:天国で甦った悪魔、異世界転生させられる。

 「いい加減、飽きたんだろうな。」何十万という数の天使がいる天国に唐突に現れた大悪魔はそう呟いて宙をみつめた。


 厳密に言うと突然現れた訳ではない。彼は死んだのだ。何万年と続く今回の天界大戦の最大のクライマックス、天使と悪魔の最強同士の一騎討ちで。


 そこまではいい、天使や悪魔とはいえ死は不思議ではないのだ。問題はその魂が天国に来たことだ。死んで地獄に戻るはずの悪魔の魂が天国へ。気の利いたジョークみたいだが、実際に彼はここにいる。


 神の御座すこの神殿の、魂の静謐といわれるこの部屋に。


 「それで、何を企んでいるんだい?着眼点は素晴らしいが、丸腰のきみはこの部屋から出ることすらできないよ。僕がいる限りね。」


 向かい合って座る彼こそ天使達の最高位指導者、大天使ミカエールである。一騎討ちにて彼と相討ちし、お互い力尽きたのだ。


 「企む?俺が策略をか?」


 「他に何があるって言うんだい?さっきまでの一騎討ちも、ずっと君は優勢だった。ほとんどいつでも僕に止めを刺せたはずだ。」


 「だけどしなかった。僕の相討ち狙いの最後の攻撃も、君は途中で手を抜いた。でなければ僕だけ死んでいたはずさ。」


 ミカエールは楽しそうにそう言うと、じっと彼の目をみつめた。天使最強にして最高位総指揮官の彼はギリシャ彫刻の如く均整がとれ、全身から慈愛の光を発しているその姿はまさに天使だ。が、性格はシニカルで心の中では毒舌、趣味は教会巡りとピラティスである。


 「アーモン・デゼルの名に賭けて誓おう。何も企んではいない。言っただろ、多分、飽きたんだよ。」最近彼はオクラを育てるのにはまっていた。


 全身漆黒で包まれ、光の反射すらしない体表。肘、膝、肩はギザギザと尖って、顔は真っ黒のマスクを被っている錯覚を起こすほど黒いが、目だけは血のような赤で、血の涙の跡のような亀裂が走っている。


 この部屋を満たす武装した天使たちがざわめく。ミカエール以外では全員でも5秒と保たないだろう。


 魂の静謐と呼ばれるこの部屋は、大理石のような材質の寝台が無数にあり、二人は部屋の中央にある寝台に腰かけて向かい合っている。


 本来なら死んだ天使の魂が還ってくる神聖なる場所だ。ここで悪魔が甦るはずがない。


 逆説的に言うと、ここで甦った者は天使という事になる。


 何らかの策略の類いと考えるのは当然の事だろう。


 「飽きるって、何にだい?戦う事にかい?」


 勇猛なる悪魔の軍勢の中でも最強の名を欲しいままにし、その残虐性で味方のはずの悪魔にさえ、畏怖をもって最恐と呼ばれる悪魔の中の勇者が、戦いたくないなどと言う訳がない。


 「そうだな、もう何万年、何十万年戦い続けているかわからんだろ?可笑しくないか?いつまでやるんだ?決着なんてつかないだろ?死んだところで悪魔は地獄に、天使は天国に魂が還るだけで、また復活して戦争を続ける。それに何の意味がある?


 人界に普及している野球の試合と変わらなくないか。同じ奴らで攻めと守りを繰り返す。一緒だろ?

いっそ戦争は止めて野球にするか?」


 真剣に語る彼は至って真面目に不謹慎な事を言い出した。天界の宿命を人間の発明したスポーツを導入してケリをつけるなんておかしいだろ。


 「君達が攻めてきたから戦争になったんじゃないか。でなければ今も平和だったはずだ。」


 実際はもっと複雑だけど。


 「いや、そうなんだけど、なーんか納得いかないってか、不思議なんだよな。騙されてるような、誤魔化されてるような。」


 マズい話題から離れよう。 


 「遥か昔の事でも事実は変わらないさ。それより君は分かっているのかい?君がここに来てしまった意味を。」


 「何の事だ?野球のルールなら良くは知らんぞ。」


 のんきな奴だ。


 「アーモン、君は死んでから地獄に逝かず、天国に来てしまった。どういう事か分かってるだろ。」


 主よ、何故こいつなのでしょうか。


 「マズイよな。過去に聞いた事がない。天使になんて憧れた事など一度もないし、なりたいとも思ってないのに。」


 いやいやいや、こっちも要らないし。


 「天地開闢以来、ここまで侵入できた悪魔も、ここで甦った悪魔もいない。ここで甦る事が出来るのは天使だけだ。そうなると君は・・・」


 しんみりとした雰囲気で答える。


 「ああ、どうしても翼が欲しくてな。ウッソー!」


 主よ、チェンジで。本気です。


 「だけどね、その姿はなんというか・・向こうの姿見で見てみるといい。」


 二本のツノがアルミ彫刻の様にカクカクと削れ尖っている。何故そこに。よりによってそのツノに。


 「ダッサ!ヤベエ、ダッセエ!ツノか?ツノのせいで屋台の輪投げの刑かよ!」


 射的の刑にも処してやりたい。


 「冗談みたいだけど真実だよ。ゴリゴリの悪魔の姿でツノに天使の光輪を戴いているのは、違和感以外の何物でもないね。」


 まさかツノ二本に光輪二つとは天使二体分か?


 「ダブルリーング!」


 こいつ・・色々とダメだろその技名は。横8とか言い出す前にチェンジで。


 「理解したかい?今、君は悪魔であり天使なんだ。そんな矛盾した存在が許される訳がない。」


 「そこで一つ提案があるんだが、他に選択肢はないから実際には決定事項だね。」


 「アーモン、君にはこれから人間に転生してもらう。そして天寿を全うするんだ。」


 穏便にね。


 「ざけんなっ!誰がんな事するかよ!」


 やっぱり?


 「言ったろ、君に選択肢はない。まあ、変換作業みたいなものだよ。もうしばらくしたら勝手に転生される。だからその前に注意事項を伝えておくよ。いや、決定事項だね。


 まず、人間を殺したり呪ったりしてはいけない。絶対にだめだ。勿論、人間に正体を明かしてもいけない。ただ、その身に死が訪れるまで普通に暮らすんだ。分かったかい?」


 出来るか?


 「出来るかっ!ふざけんなっ!誰がそんな真似するか。気に入らねえ奴は皆殺しに決まってんだろ!」


 主よ、我々はその御心に従うだけですが、チェンジで。


 「構わないが、その時点で死んで生まれ変わってやり直すだけだよ。何回でもね。そんな時間があるのかな?今も天使の軍勢は進行を続けてる。君がいない悪魔共なんて簡単に攻め滅ぼせるだろう。百年かからないかもね。」


 天国、地獄を侵略。これはないな、悪者感がひどい。


 「うっ、確かに。あいつら馬鹿だからなあ~」


 「理解してくれて嬉しいよ。説明を続けるよ。人間に転生されるけれど、それ以外は全て今の君のままだから、人間の身体に君が宿る事になる。」


 「今の君の状態で転生させるのはかなり無茶なんだ。能力を封じることが出来ないし、与える事も無理だ。言葉は自分で覚えてくれ。」


 「不妊で子供のいない夫婦のところに奇跡で出来る子供だから好きに生きていいよ。」


 本当に生まれる筈の命をこんな事に使える訳がない


 「わかったわかった。細かい事はいいから、さっさと始めてくれ。還って来たら野球教えてやる。」


 どんだけ野球推しなんだよ。大丈夫か?


 「大事なことを言ってなかった。君が天寿を全うしたら、きちんと審判が下され、天国行きか地獄行きか決まる。あとは好きにするといい。」


 出来るならね。変換作業とは上手い喩えだな。


 「聞いていいか?堕天使の奴らもこの手順を踏んでるのか?ツノをはやした天使なんて地獄に来たことないからな。」


 確かに聞いた事がない。


 「そうだね。大体この手順で人間に転生して、地獄に堕ちるかな。」


 嘘は言ってない。が、全部も言ってない。


 「なら簡単だな。地獄行きが楽しみだ、とっととやってくれ。ボールとバットは用意しとけよ。」


 はあ、また厄介事か・・


 「頭の上を見てくれ。光輪が大きく広がっただろ。やがて下に降りてくる。潜り抜けたら転生してるはずだ。因みに公平を期す為に宗教色の強い国には転生しないのでそのつもりで。地上でもかなり安全な国に転生するよ。」


 疲れた。何百年かゆっくりしてくるといい。


 「教会には絶対行かないからな。おおっ、こんな使い方知らなかったぜ。ただの飾りか・・・・」


 うるさい。確かに他に使い道ないけどね。やっと静かになった。


 「ご苦労様でした。皆さん持ち場に戻って下さい。」


 集まった天使達に指示をだし、ミカエールは急いで主へ報告するが、主は何故かいつもより冷たかった。主にはミカエールの心の声が聴こえていたらしい。


 主の思し召しか嫌がらせか、本人の予想とはかなり違う転生を果たす。


 その世界にヴァンパイアはいたが、エンパイアはいなかった。その16年後から物語は始まる。






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