目を醒ます
「・・・けて、誰か助けてよ。お願いだから!!」
知らない女性の声に、重い瞼を抉じ開ける。
・・・全く知らない景色。何処かの、月明かりに映える、美しい草原。
何故、生きている?とか、死ねなかったな・・・。とか。
今は、そんなことはどうだっていい。
いつの間にか手に持っていた、見馴れた、錆びた、剣。
それを真正面に構える。
「グ、グモォォォア!!」「ギュルァアォォォ!!」「ガァァァ!!」
相手、【オーク】の集団は、それを見て、鼻息を荒くして、激昂している。
そんなことも、どうでもいい。
もう、こんな悲痛な叫びは。
自分が、魂の中でしていた慟哭は。
(もう、聞きたくない。こんなのは、こんな風に叫ぶのは、僕だけで十分だ。)
剣を構えたまま、走る。
【器用貧乏】な剣術なんて、使わない。
剣が錆びているから。
オークの厚い脂肪には、通らないから。
だから。
走っていった勢いのまま、突きを一体に繰り出す。喉に刺さった剣を、素早く引き抜く。
・・・本来、オークなんて、まともな【スキル】を持っている大人が一人でも勝てるような、【魔物】だ。
でも、僕にとっては。
まともな【スキル】なんてない、僕にとっては。
一対一でなんとか勝てるような相手だ。
ましてや、二桁以上の集団なんて。
それでも、やる。
どうせ、死んでも良いのだから。
死ぬ意味があるだけ、まだマシかもしれない。
引き抜いた剣で、別のオークの喉を切り払う。
やはり、切り落とせなかった。
けど、それでもいい。どうせ、致命傷だ。
また引き抜いて、次へ、走る。
それを、繰り返す。ひたすら、繰り返す。
棍棒で何度も殴られる。意識が幾度飛びかけたかなんて、数えてもいられなかった。
返り血を浴びても、止まらない。止まれば、彼女が救えなくなる。
首を抉る。目を突く。体当たりで繋いで。
僕が持てる全てを。今までしてきたことを。
ただ、それだけを愚直に、繰り返した。
・・・どのくらい、戦っただろうか。
後、2体。僕ももうフラフラだ。
・・・けれど、それでも。
その時、それは聞こえた。
「ありがとう。本当に。・・・【持ち去る手】!」
後ろから闇が伸びてくる。それは、僕を通りすぎて、2体の胸に突き刺さり。
咀嚼するような、不快な音を聞いたときには、既に僕は地面に倒れていた。
また、視界が暗転する。
目を閉じたまま、聞いているであろう女性にむけて呟く。
「・・・生、きて、き、みは・・・。」
今にも消えそうな意識。
それでも、振り絞る。まだ、伝えきれていない。
「僕、の、ことは・・・無為な、死、って、切り捨、ててくれ・・・れば、い、いから。」
「だから、君は・・・生きて。」
「・・っと!起き・!・・・私が、・・・いだ。【・・・る手】、・移」
閉じた視界の先で、閃光が爆ぜた気がした。
だけどそれは、いい。もう、いい。
(聞こえてたかな。助けられたかな。もう、彼女は大丈夫だろうか?・・・きっと、大丈夫だろう。僕も意味は。それくらいは、残せたかな。)
(・・・もう、楽に。)
そして、僕は意識を手放した。