僕の希望は・・・
それから、2年後。こんな噂が流れてきた。
『【邪神】討滅!!』
(あぁ、終わったのか。)
その知らせを聞いた僕は、より一層頑張った。
より、剣を振った。より、仕事を増やした。より、自分の時間を減らした。
・・・結局、誰にも追い付けなかったけど。
それから、更に一年。貯金が少しは出来た頃。より具体的に言うとさっき。
レーナが帰ってきた。
「レー・・・・・・ナ?」
今にも沈みそうな夕日と共に、レーナは帰ってきた。
ただ、その瞳はもう、僕を見ていなかった。
その肢体は、【英雄】、兄の身体に押し付けられていた。
レーナと、【聖女】な王女様、そしてもう一人、誰かを侍らせた兄は、「今までありがとね、引き立て役クン!」等と言ってーーー抜かして。
レーナから絶望を告げられた。
無かったことにしてほしい、と。
それは、彼女が『ミル』と呼んだ少年・・・僕がもう、誰にも必要とされなくなってしまったことを。
・・・恐らく、一生孤独になってしまったことを。
嫌になるくらい、明瞭に、残酷に告げていた。
・・・あの後、どうやって帰ってきたか覚えてない。
ただ、無言で薄汚れたベッドに座っている。
隣の部屋からの『嬌声』が煩わしい。
レーナと、王女。あと一人。聞かせるためにわざわざ隣の部屋で“して”いるのだろう。
それでも無心で考える。
涙は・・・出てこなかった。
兄は、僕の味方なんかじゃ無かった。
レーナも、本当の味方では無かったらしい。
両親も違う。村民は?違う。行商人は?違う。【聖女】様は?違う。付いていた騎士は?薬屋のおばさんは?大工の親方は?
・・・誰も違う。
誰が、僕を必要とした?
誰もそんなことしなかった。
・・・今の僕は、意味もなく生きている。
こんなの、只の資源の穀潰し、生きているだけのクズだろう。
そして、思考が行き当たる。
・・・行き当たって、しまった。
「なぜ、僕は今生きているのかな。」
だって、そうだろう?誰からも、必要とされず、疎まれ、蔑まれる。
最大限仕事をして、それでも本職よりも上手くできず、さらにその仕事量にすら、全く見会わない給金。
それでも、その僅かな給金をためて、迎えようとした、彼女。
より美しくなっていた、彼女。
・・・兄に奪われた、大切だった彼女。
ゴミスキルしか与えられず、何者からも搾取される、人生。
そんな、人生に。こんな、世界に。
果たして、こんなに努力してまで。
「生きている意味は、あるのかな?」
「そうだ。死のう。」
そして、気付いたら僕は。
錆びた鉄の剣を。いつも振っていた剣を。僅かながら生き物も殺した、この剣を。
今は、僕の喉に突き刺していた。
血が、吹き出る。でも、僕は、まるで他人事のようにそれを見ていた。
(あぁ、やっちゃったな。)
刺してから、その感触を認識する。
思っていたより痛みはない。苦しくもない。
ただ、あるのは後悔だけ。
何故、僕ばかりなのか。そんな理不尽に対する、怒りにも似た、後悔だけ。
(さよなら。)
「・・・あ、よ・・あ・・ら」
それは、僕なりの未練の言葉。
誰かが聞いていれば、と発したつもりの言葉。
何もない、なにも残せなかった男が残そうとした、最期の言葉。
でも、もう、その一言すらも、もう、まともに言えなかった。
床の血の上に倒れる。より、深く、剣が喉に抉り込んだ。
(これで、良かったのか?)
誰かが聞いてくる。
・・・多分、僕の『本心』だろう。
(良かったんだ。これで。)
何もない。伽藍堂で空白で虚ろだった、僕の人生。産まれてきた意味すら不明な、僕の人生。
明日、明後日には知っているやつの記憶からすら、風化して、忘れ去られていく。
もう、考える必要もない。
(・・・そうか。)
不意に、これまで出なかった涙が2滴溢れて。まるで、それは、『本心』が、僕に、本心を言え、と急かしているようで。
しかし、その涙を認識した直後、僕の視界は暗転した。




