表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

変化と希望と絶望の日々

 

 13才の時のこと。


 やはりレーナと兄くらいしか、頼れる人がいなかった時のこと。


 兄とレーナの右目に、変な紋様が浮かんだ。

 兄の目には、恐らく『剣』を模したもの、

 レーナの目には、恐らく『杖』を模したものが浮かんでいた。


 この時の僕は知らなかった。






 それが、絶望の始まりだったことに。




 教会の神父様に、二人が聞きに行ったら

『【救世の証】だ・・・。』と、大層ビックリした顔で言われたらしい。


 そこからは、とても速かった。



 兄は【英雄】として。レーナは【魔帝】として。

【聖女】様と呼ばれていた、恐らく第一王女様であろう人に、“【邪神】討伐”とやらに連れていかれる事になってしまった。


 兄にぴったりな、【英雄】。レーナのイメージに、何となく合っている【魔帝】。


 (・・・あぁ、やっぱりか。)


 そう、思った。


 (レーナと僕なんかじゃ、釣り合わなかったんだ。)


 あぁ、でも。


 (レーナと兄。【英雄】と【魔帝】。・・・お似合いなんじゃないかな。)


 そういう諦観と。


 やっぱり。


 (レーナが好きだ。せめて告白くらいは。)


 そういう、未練の様なもの。


 その2つが思考を占めていた。


 それでも、答えは出なくて。

 出発前日の夜になってしまっていた。



 僕は、レーナを呼び出していた。

 場所は、村が見える高台。そこくらいしか、思い付かなかった。



「ミルー?居るー?」



 レーナが来た。心臓の音が聞こえてくる。


「居るよ。」


「話があるんだっけ?どうしたの?」


 伝えたい。伝えなければ、ならない。


「レーナ。君が好きだ。初めて会ったときからずっと。僕と結婚してほしい。」



(あぁ。言ってしまった。)


 レーナが息を飲んだのが分かった。


 今から、彼女は村を出ていくうえに、相手は救世の勇者。こちらは、只の村人ですらもないダメ人間。叶うはずがない。


 それでも、回りだした口は止まらない。


「今から行かないといけないのに。、今から結婚?、私を支えられるの? ・・・そんなことを考えているかもしれない。」


「でも、頑張るから。君が、帰ってくるまでには、僕は、「いいよ。」「・・・え?」


 月明かりに照らされた、幻想的な彼女が言う。


「私も、あなたが好き。私が帰ってきたら、しよ。結婚。」


「・・・そう。あり、がとう。」


 こんなに、簡単に。僕の初恋は実ってしまった。約束は交わされてしまった。


 そう、僕は安心してしまった。



 完全に決まってもいなかったのに。



 いくらでも、可能性はあったのに。



 翌朝、レーナが旅立った。

 僕は、働くことにした。


 いつか、帰ってくるレーナのために。


 そして、僕の地獄の日々が始まった。


 相も変わらずの暴行。

 それでも必死に働く。体が痛くても。

 彼女が居なくて、心が痛くても。

 誰よりも必死に働いた。


 それでも、あり得ない程少ない給金。他の人の半分もない。


 それでも、村から離れることは出来ないから。彼女は、いつ帰ってくるか分からないから。

 仕方がない、と割りきって働く。


 ご飯も、自分で作る。その辺の草と、池で捕った、薄い毒のある、小さい魚。僅かな調味料で味付けをして。こんなものを焼いて食べるしか、無かった。


 合間の時間に剣を振る。鉄の錆びた剣。相場で買った筈の、不良品。それでも、文句を言わずに振る。


 少しでも、強く。少しでも、速く。

 少しでも、彼女や兄に近づけるように。


 どれも、【器用貧乏(きようびんぼう)】のお陰で、出来た。ただし、最低限だが。


 それでも、この時だけは、【スキル】に死ぬほど感謝した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ