「裁定」(アドラ視点)
「・・・さて、と。」
紅い髪の彼女を見る。
「私の仕事をしようか。まずは・・・うん。」
そうだ。そのためにさっきまで敢えて黙っていたのだから。
「まずは君に制裁を。1つ、残酷な真実を。あ、殺す気は無いから安心してね?」
「私はね、『手』を自在に操ることが出来るんだよ。まぁ、詳しく説明する気もないから。これについては流してね。」
そう。彼、ミルドのお陰で回収できたような『コア』。
その欠片に含まれていた力。体への癒着に昨日まで掛かった『記憶』。
「『英雄』のスキル。【剣客】、【剛体】、【空蹴】、【全魔法適性】、【悪誅】【気配操作】、そして【魅力】。」
『暴く手』。
この『手』で触れた相手の情報を好きなだけ視れる手。かなり重宝している『手』の1つだ。
「この中の【魅力】についてだね。」
彼女はずっと静かにこちらの話を聞いている。
「この【スキル】はね3つ使用条件があるんだよ。」
「1つ。相手が異性であること。」
「2つ。一定期間相手の近くにいること。たぶん一月くらいじゃないかな?」
「3つ。相手が自分に異性として好意を寄せていること。簡単に言うと、好きだーって思ったり、性欲の対象として見たりだね。」
目を見開く彼女。
きっと理解が出来ないのだろう。私はミルドが好きだった、と。兄についてはなにも思っていなかった、と。
果たして本当にそうだろうか?
彼女の戦闘の役割は後衛だ。つまり前衛に守られることになるだろう。
それも自分の好きな人の兄にだ。
頼りにしない、ということはないだろう。
そして、そういう感情は孤独感なんかで簡単に愛欲に変わる。本人の自覚すら無いままに。
「まぁ、まだ終わってないんだけどねー?」
「・・・えっ?」
初めて声を出した。そう。まだ使用条件の話なのだ。効果についてはまだなにもいっていない。
「効果についてだね。2つの条件。それを満たしている者の好感度、好意。そういう自分に向けられる感情を自由に弄くれる・・・っていうものだよ。使用、解除は自由だけどね。」
「あ、追加で他の異性に対する興味を薄れさせるっていうのもあったね。」
絶句する【魔帝】。ここまでくれば勝ちも同然かな。
【魅力】。質が悪い、一種の洗脳だ。相手に好かれた瞬間に半好き放題状態。他の男に寝取られる心配も減る。
対抗する術は・・・本人に使用を解かせるか、自身に【マナ】を使った装甲でも作ってその【スキル】をレジストし続けるくらいかな。
それも気付かないと出来ないし。
「あぁ・・・。」
諦めたように嘆息する【魔帝】。
「そう。解っているとは思うけど、」
「「君(私)がわるいんだよ(ね)。」」
そう。不可能だとは思うけど、彼女が好意を抱かなければ彼は裏切られず、死ぬこともなく、私と会うこともなかった。
「・・・ねぇ、【邪神】。」
「ふぅ・・・何かなー?」
「彼を、お願い。私にはもう無理だから。耐えきれないから。」
「・・・え?」
「彼を苦しめたのは私だから。だから貴女が、彼を「巫山戯ないでくれないかな?」
「お願い?それは逃げって言うんだけど?耐えきれない?彼の苦しみを知っているのかな?」
黄色い『手』。相手に記憶を送り込む『手』。
それで最速で彼女の頭を掴み、無理矢理情報の波を流し込む。
「何、これ・・・あ、あぁ、あ、止めて死んじゃうじゃん、ミル、ダメッ!!」
負担はあまりないが、失敗した。彼女に見せるつもりは無かったのに。
「あ、ああ」
そしてへたりこむ紅い髪の彼女。その目には最早光はなかった。
「・・・『転移』。」
そして、なにも言わず、更に痕跡すら残さず彼女は去っていった。
「・・・まぁ、仕方がないかな」
私でもああなりそうな気がする。まぁ、それはそれとして。
「さぁ。」
仕上げをしよう。
「【魔帝】は終わった。【聖女】と【剣聖】は・・・いいかな。あとは【英雄】か。」
術式、起動。2日間かけて構築したとっておきの『手』。
「【絡め続ける茨の魔手】!」
・・・よし。確かに【英雄】の体に宿ったのを確認した。することは終わったかな。
「さて、私たちも行こうか、ミリ?」
「はい!」
そして、私たちも彼が消えていった黒い割れ目に身を投じた。
このペースの投稿で読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。
もうしばらくこのペースで続くかと思われます。
すみません。




