不幸と幸福
これは、僕の、ミルドの話だ。
僕は、生まれてくるべき子供では無かったみたいだった。
この世界、『ヴィトリア』では、生まれつき、【スキル】というものが決まっている。
『神様』からの、贈り物らしい。
例えば、料理が上手くなったり、魔法が上手くなったり、剣が上手く使えたり。
色々な種類があって、進化することもあって、被ることも稀じゃない、【スキル】。
大抵の人は、2つか3つ。多ければ5つくらい貰えるらしい。
何が貰えるかは『神様』次第。
後天的に増えることは無い。
つまり。
【スキル】に、人生を決められることがある。生れた時から、決められている。
・・・そういうこともあるわけだ。
その典型が僕だった。
僕は、【スキル】を1つしか持たずに生まれてきた。【器用貧乏】。
それが、僕の一生付き合うらしい、
【スキル】の名前だ。
一通りはなんでもできるが、それ以上は上手くなれない。
・・・言うまでもなく、ごみスキルだ。
そして、これ1つしかない。結果、僕がどうなったか。
具体的にいうと、まず両親は、僕を見なかった。最低限生き長らえられる食事だけを与えて、後は放置。
それでも食べ物をくれるだけ、まだマシだった。
そして、村に住んでいたのだが、村民は僕と関わろうとしない。それも徹底的に。
そして、彼らの子供たちからは・・・暴力を受けていた。三歳の頃からずっと。
何かをすれば殴られる。
なにかを言えば蹴られる。
呼べばパンチが飛んできて。
敬語を外すと吹き飛ばされた。
体のいい“忌み子”と言う言葉で、奴隷のように扱われた。
その、僕の代わりとでもいうように、僕には凄まじい兄がいた。なんでもそつなくこなす。【器用貧乏】を持つ僕よりも。
【スキル】は、7つ位はあった筈だ。
・・・正に化け物。子供ながら大の大人ですら太刀打ちできない程に、強く、優秀だった。
レンド、と言った2つ歳上の兄は、よく『ミル、遊ぼうよ。』と、“忌み子”の僕を連れ出して、兄の友達と一緒に、僕を遊ばせた。
・・・兄が気づいてないらしい、侮蔑の視線は痛かったが、表だっての嫌がらせは無かった。
楽しいことなんてない。そんな僕の、唯一の、束の間の『楽しい事』だった。
そして、六年前の、たしか雪が降っていた日。
僕は、彼女と出会った。
その日も、いつもと同じように兄に誘われて遊んでいた。
でも、今回は今まで会ったことのない少女が一人。僕の暗い黒髪とは対照的な、燃えるような紅色の髪。僕と同じ蒼い瞳。内気な僕と強気な彼女。同じくらいの、小さめな身長。
同じところと、対照的なところで構成された、兄と同い年の少女。それがレーナだった。
『あなたがミル、っていうのね!よろしく!』
『・・・君は、僕のことが、嫌いじゃないんですか?』
『え?あなた、何かしたの?』
『・・・なにも。』
『なら、嫌いになるわけないじゃない!』
『ほら、はやくあそびましょう!』
そんな、ありふれていそうな、しょうもない出会い。
それでもレーナだけは、いつも僕と普通に関わってくれた。
彼女にいつも支えられていた。
・・・恐らく、この時から僕は彼女に恋していたのだろう。
十歳の時の、最初で最後の、甘くて酸っぱい思い出だった。