『到着』(レーナ視点)
着いた。凄まじい『マナ』の流れを感じる。
ミルは・・・っ!この『マナ』の流れの中心にいる!何かの実験台にされて・・・?
急がなきゃ、急がなきゃ、急がなきゃ!
あの【邪神】と戦った場所。そこに向かって走る。階段を駆け上り、廊下を疾駆する。
上って、曲がって、走って。
大きな扉、それを押し開ける。
「待ちなさいっ!」
中には三人。翼を広げた【邪神】と、黒髪の女の子。そして。
「レーナ。」
「ミルッ!」
彼を見つめる。彼の目は猜疑に染まり切っていっていて、なんでここに?という、無言の問いが私に重く圧しかかってる。
確かに私を信用できないかもしれない。私は彼を裏切ったのだ。自由意思ではなかったとして、それがなんだというのだろう。
彼からすればどちらも私なのだから。
しかし、『邪神』とともにいるよりはマシだろう。
だから、彼を助ける。
「ミルッ!助けにき「どうしてここに?」
「心配だからよ!」
「・・・えっと、何が?」
何をいっているのだろう。今の状況からに決まっているのに。
「『邪神』に捕まったんでしょう?人体実験とかされてない?」
「アドラはそんなことしないよ。」
「う、嘘よ!」
「嘘じゃないよ。あと、それだけ?なら、帰ってくれない?今からしないといけないことがあるんだけど。」
その反応は私の知っていたミルのとは大きく違っていた。
ミルなら、もっと優しく。もっと労ってくれて。ミルなら、もっと私に。ミルなら、ミルなら、ミルなら・・・・。
「まぁ、僕はもう大丈夫だからさ。レーナは兄さんと仲良くやっていってよ。」
違う。私が欲しいのはそんな言葉じゃない。なんで、そんなことを言うんだろう。
目から何か熱いものが溢れる。
それは安堵なんかじゃなくて、悔しさから来ていた。
「それに僕はもうアドラのモノだから。それに、君に僕はもう必要ないでしょう?だから、兄さんと一緒に居たいだけ居ればいいと思うよ。」
告げられた絶望的な一言。
・・・違う。こんなのミルじゃない。
自然、『邪神』に目が向く。
「・・・あなた、ミルに何をしたの?」
「へー。私が何かをした、と。まぁ、普通はそう思うよねー。」
『邪神』が嗤う。彼女か、もう一人の黒髪の子のどちらかだろう。
「私はねー。んー。そうだね。」
「彼と寝たね。」
「・・・え?ね、寝たって、ミルと?」
「アドラ!?」
「うん。可愛かったよ。(寝ようとするのに)必死で。もう、本当に。」
「ア、アドラ!止めて、本当に!」
ミルと『邪神』が・・・寝た?(そういうことをするのに)必死だった?
・・・ミルが、取られた?
「は、はは。」
きっと、もう私の知っている彼はいないのだろう。
いつも優しかったかわいい顔立ちの、黒髪の少年。
“追い付けなくても”と、必死で努力していた、私の“元”婚約者。
確かに裏切ったのは私かもしれない。
でも、しょうがないじゃないか。
きっと、誰かの【スキル】のせいなのだから。
「あ、アドラ。もう、この割れ目って入ってもいいの?」
「うん。中にはいったら真っ直ぐ歩き続ければいいよー。」
「じゃあ、僕は先に行くよ。」
「うん。私たちもすぐに行く。」
嘆いている間にも会話は終わり。
黒い何かにミルが飛び込む直前、こちらへ振り返った。
「・・・じゃあね、レーナ。」
切るのを忘れていた『探知魔法』。
この世界中のどこにいても、そのひとの場所が分かる魔法。
その魔法から。
ミルの反応が消えた。




