柔らかい夜
「あ、あのアドラ?」
「なにー?」
「そろそろ離してくれない?」
「ダーメ。」
あれからしばらく黒い『手』に拘束されていて動けない。
痛いわけではないし、アドラに拘束されるのなら、それはそれでいいのだけれど・・・。
「そう言えば、アドラ。」
「なーに?」
「『手』を使っていいの?」
「駄目だよー。」
「なら、なんで・・・?」
身を包む黒い塊の力がいっそう強まる。“言わなくても解かれ”とでも言われているように。
「ん?それはねー?」
「悪い子にオシオキするためだよ。」
ニッコリと。満面の笑みを浮かべて言うアドラ。ただ、その笑みに背筋が寒くなる。まるで、蛇にでも睨まれたような・・・。
「じゃあ、行こうか?」
返答は返せず。『手』に掴まれたまま何処かに運ばれた・・・と思ったら、すぐに何か柔らかい物の上に転がされた。
周りの光景から、最初に起きた白い部屋だと分かる。だとすると・・・ベッドかな?
アドラはクスクスと笑いながら僕の上に跨がってくる。
「『マナ』を練るのが乱れちゃったから協力して貰おうかなー?」
「な、何をするの?」
「フフフ。」
また抱きしめられた。
「異性の体を媒体に、制御の質をあげる魔術があるんだ。」
「だから、一晩ここで一緒に居てもらうね?」
・・・どうやら僕の逃げ道はないようだ。
その日の夜はとても大変だった。
アドラのおもに何処が、とは言わないけど柔らかすぎて、寝ることが出来ませんでした。
五日目。
特に何事もなく終わった。
ミリと出掛けることもなく、一日をミリの部屋で過ごした。
ただ、夜は・・・昨日と同じで大変でした。
六日目。
アドラが指定した日だ。
ミリと共に、この城(?)の中で一番広い部屋に行く。
僕らが部屋に着くと、アドラは既に『何か』の詠唱を始めていた。というよりも既に終わりかけだった。
「応えよ。我が求むるは安らかなる彼方への跳躍。永遠の安寧。別世界への鍵。『界越の手』」
アドラの“胸の真ん中から”出てきた二本の黒い手。
それが何もない空間に爪を立て、ギリギリと引き裂いていき・・・出来たのは暗く黒い一つの穴だ。
「アドラ。これは?」
「これは時空の割れ目。入ると別の世界に行けるんだ。」
「へぇ。すごい『手』だね。」
「そして、君に「待ちなさいっ!」
その声に息を飲む。胸が苦しくなり、締め付けられるように痛い。
振り替える。
ここのところよく見る紅い髪と蒼い瞳。
・・・そこにいたのは。
「レーナ。」
別れを告げたかった、初恋だった人。
『魔帝』レーナだった。
短いです。すみません。




