温かさ
「あの。ミリの親御さんですか「何でまだ生きてるのよ!!」
問いは余りにも酷い怒声に打ち消された。
「何で、何で生きているの!?“ホビット”のハーフのアンタなんかが、生きていられるわけ・・・生きていていいわけがないでしょう!?」
「あのー。ミリの親御さんですか?」
「・・・アンタのせいで、アンタのせいで、アンタのせいで・・・。」
・・・聞いていないようだ。
「あの!!ミリの!!親御さんですか!?」
衆目に関わらず叫ぶ。
「・・・誰よ、アンタ。」
今度は反応した。
「僕ですか。僕ですよね。僕は」
隣にいるミリの頭を撫でながら言う。
「アナタの娘であったであろう人に助けられた者です。」
仄かな僕の怒気を感じ取ったのだろうか。
女性は少し怯んでいる。
・・・そういや、人の事で真剣に怒ったのは初めてかな。
「彼女は、死にかけていた僕を助けてくれた人です。『死にたい』、『死にたかった』なんて言った僕ですら、そんな馬鹿な僕ですら、助けてくれた人です。」
ワシャワシャとミリの頭を掻き撫でながら続ける。
「癒してくれて、受け止めてくれて、泣いてくれて、彼女と共に、僕に意味をくれた人、なんです。」
意味が伝わってなくてもいい。
「だから僕が傷つけてしまった彼女を。」
「どうか、彼女をこれ以上傷つけるのは。貶めるのは。・・・止めてください。」
(許さない・・・なんて言えない。僕も同じだから。でも。少しでも恩は返せたかな?)
言い終わると、女性が僕に向かって舌打ちをした。
それと同時にザワザワとした喧騒が戻ってくる。
・・・結構恥ずかしいな。
「・・・まぁ、どうでもいいわ。アンタもその子のせいで不幸になればいい。・・・その子はただの疫病神だと言うのに。」
疫病神。その言葉は少し僕にも刺さる。
蘇る、ただそこに居るだけで資源を食い潰す自分。
・・・でも、ミリは違うだろう?
僕なんかとは違う筈だ。
「・・・僕は、」
何かを言う前に、女性は踵を返し、去っていった。
回りの観衆も、散り散りに去っていく。
知らない間に離していた、手をおいていた頭を見る。
「・・・ミルド、さん。・・・ミリ、は。ミリ・・・・・・は・・・。」
僕から目を伏せて泣いているであろうミリ。
(もう、ここには居ない方がいいな。)
そう、判断して女性から極力遠ざかるように離れた。
帰り道。行きと同じ道。いつかと同じ、消えかけの紅色の空。段違いに空気だけ悪い。
あれからミリはずっと俯いたままだ。
彼女にしてあげられることは僕にはない。
【器用貧乏】な僕には、何もできない。
暗い沈黙。破ったのは黒い髪の幼女だった。
「・・・ミルドさん。・・・ミリのことどう思いますか?」
「・・・どういう意味?」
「・・・ミリは、捨てられました。あの人達に。・・・私は悪くない!そう叫びたかった。苦しかった。辛かった!痛かった!!」
「そんな、本当に死にそうな時でした。助けてくれたんです。あの方が。」
「でも、ミリのせいでアドラ様も本気を出せなくて・・・。ミリは、本当に疫病が「そんなことはない。」
自分でも驚く。気付いたら声が出ていた。
でも。抑えることはしない。
僕がもらったものを、ミリ自身が汚そうとしているから。
「君が何であろうと僕には関係ない。君は、助けてくれた、救ってくれた、許してくれた人だ。君のせいでどうなろうが、僕は君を、ミリを疫病神だなんて思わない。だから。」
「ミリがミリを否定しないで。」
「あ、あぁ。」
「泣きたいときは泣けばいい。辛ければ叫べばいい。逃げたいなら逃げればいい。僕も、きっとアドラも。それを不幸だなんて思わない。」
「ミルド、さん。・・・ミルドさんッ!」
ミリに飛び付かれ、胸に顔を埋められて泣きじゃくられる。・・・アドラにこれしてたのか。さっきより恥ずかしいな。
でも、これだけは言わないと。
「だから、気にしないでいいんだよ。」
嗚咽がより大きくなる。
・・・さも、いいことを言ったかのようだが、これは半分以上が僕への言葉でもある。
こう言われたい。こうされたい。こうしたい。そんな欲がつまっている。
やっぱり、僕は【器用貧乏】みたいだ。




