『記憶』(アドラ視点)
前回から少し後です。
「・・・【透過の手】」
直後、私の意識も薄れかける。
・・・決して、私が知りたかっただけではない。断じてない。
彼の為だ。
多少強引だったが、しょうがない。
そう、言い訳して私は目を閉じた。
目を開けて飛び込んできたのは、緑豊かな山とログハウスの群れだった。
(ここが、彼の。)
そう、理解してから、16年間。現実ではたった16分。
私が見た、彼の人生。考え、思い、想い。
最悪の、記憶。
彼から見た、村人たち。
手を差し伸べることが無かった、彼ら。
彼をいじめる、彼らの子供。
殴られ、蹴られ、吹き飛ばされる彼。
彼から見た、両親。
愛など、微塵も与えられず、彼もそれで満足してしまっていた。
彼を誘う、兄。【英雄】。
【英雄】だったことなんてどうでもいい。
ただ、『コレ』が赦せない。
端から見れば、よく分かる。
・・・この時から、『コレ』の顔に愉悦が溢れていた。もう、彼を徹底的に“折る”気でいた。
【英雄】が行ったあと、努力していた、彼。
必死に働き、得られた少ない給金。
それすらも使わず、貯めていた。
そして。
彼から見た、レーナ。
どうしようもなかった彼の世界の、唯一の支え。
彼を裏切った、どうしようもない、婚約者。
・・・確かに、この世界で踏むべき手順。
両親の了承もないし、書類なんかも教会に提出していない。
・・・それでも、確かに彼女は了承したのだ。
でも、裏切った。
彼が努力していた時、彼の心は、半分死んでいた。
何をしても、変わらない孤独。
いつか、彼の心は感じる事を止め、脳は信じる事を止め。
ただ、未来を信じて、耐えていた。
レーナとの未来を。幸せな未来を。唯一を。
でも、裏切った。
兄から言われた言葉。
『今までありがとね、引き立て役クン!』
その隣にいた彼女。
その時の彼の心は。
『不快感』。『孤独感』。『無力感』。『絶望』。『諦観』。『悲哀』。『憎悪』。『嫉妬』。『渇望』。『寂寥』。『欲望』。
後先関係なく、沸いてくる感情で、想いで占められていて。
そして最後には。
『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。『虚無』。
『孤独感』・・・。
底無しの『虚無』と、僅かな『孤独感』。
それのみで構成されていた。
そして、彼の喉元に迫る、錆びた鉄の刃。
・・・顔が、涙でグシャグシャだ。
手なんて、何度伸ばしたか分からない。
でも。
『手』もだせず。干渉することすら出来ない。
だから。
(彼を、彼を助けなきゃ。救わなきゃいけない。だって、彼には幸せになってほしい。なる必要がある。だから)
血溜りに沈んでいる彼に向かって、
(また、現実で。)
そう、彼には聞こえない言葉を発して。
光が、消えた。
ーーーミルド視点ーーー
夢を、見た。
生まれつき強すぎた、異質ゆえに孤立した少女の夢を。
『手』を操り、何でも出来た、【邪神】と呼ばれた少女。
争いが嫌いなのに、いつも一人で戦って。
黒髪の幼女を救って。
幼女を守り、【英雄】に敗北して。
それでも、強靭な生命力が死ぬ事すら許してくれなくて。
(あぁ。)
理解する。
彼女も、僕と一緒だった。
ただ、在りうるはずのない救いが欲しかったのだ。
光が、消えていく。
彼女が見せたであろうこの光景にも、きっと意味がある。
(ねぇ、そうなんだろ?アドラ。)
答えのない問いかけは、光と共に、霧散した。




