第1章 出会いその2
不敵に微笑むジャンヌ。
何故ジャンヌが不老不死の魔法を探しているのか、その理由を聞いていいものなのかが分からないレオン。
理由を聞いたとして、万が一ジャンヌの機嫌が悪くなり、妹が助からなくなるという最悪なケースだけは何としてでも避けたかった。
どう返答すべきかを考えていたレオンであったが、第三者の介入により返答せずに済んだ。
「レオン君!奇跡だ…奇跡が起きたんだ」
そんな事を言いながら、第1待ち合い室に入って来たのは手術着を着た医師であった。
「レイナちゃんが何とか持ち直したんだ!これなら、大丈夫かもしれないぞ」
がっしりと両肩を掴まれるレオン。
レオンが医師の顔を見ると、額には大量の汗や泣いたのか分からないが、涙の跡らしきものも見えた。
「あ、ありがとうございました」
はっきり、しっかりとお礼を伝えるレオン。
先ほどまでとは気持ちが違う。
この医師達は、自分の妹であるレイナが助かる、助けるんだと、今まで奮闘していてくれたのだ。
助かったのはジャンヌのおかげなのかもしれない。しかし、それとこれとは話しが別だ。
心の底から敬意を持つレオン。
「レオン。私は屋上に行っているから、お前は妹の側に居てやるといい」
「…妹とは話せますか?」
「睡眠魔法はもう少しで解けるだろうから、病室で待っているといい」
現代では、麻酔は痛みを無くす為に使われている。手術中は魔法医師が睡眠魔法を使用し、患者を眠らせるのがほとんどである。
医師に勧められたように、レオンはレイナの病室で待つ事とした。
部屋を後にするレオンを見ながら、ジャンヌはボソっと呟く。
「この世界で最も美しいのはやはり兄妹愛だろう。そして、最も醜いのもやはり兄妹愛か…」
なあレオン。
どうかお前達は、美しい兄妹愛であってくれ。
どんなに醜い世界の中でも…さ。
ジャンヌは目を閉じながら、胸の前で両手を重ねた。魔導師である自分。導いてやる事は誰にも出来ない事だ。ならばせめて祈りだけでも捧げようではないか。
第1待ち合い室でしばらく祈りを捧げるジャンヌであった。
「…良かった。動いてる」
レイナの病室にて、レイナを見たレオンは深く、深くため息を吐く。
疑っていたわけではないが、やはり自分の目で確認するまでは安心できなかった。
きちんと呼吸をしているのが目に入った途端、どっと疲れが押し寄せてきたらしい。
「待ってろレイナ。必ず、必ず俺が、お前を救ってやる」
レイナの左手をギュッと両手で包み込みながら、死の宣告魔法を解く鍵を探す事を決意する。
不老不死の魔法を見つけるのは、決して簡単な事ではない。
しかし、見つからなかった場合レイナは死ぬ。
見つけるしかないのだ。
レイナと自分の手を額にあて、頭を回転させる。
これからの事を考える。1分1秒無駄に出来ないんだ…両目を瞑っているレオンは、気がつくと眠ってしまうのであった。
レオンがレイナの病室で寝ている頃、ジャンヌは屋上にやって来ていた。
右手には花束を握りしめている。
左手でドアを開け、目的の場所に目を向けるジャンヌは、やれやれと首を横に振った。
「おぃ少年。死ぬなら向こうで死んでくれないか?」
目的の場所の近くにある金網を、1人の少年がよじ登っていたのだ。
ガシャガシャと音をたてていたが、ジャンヌにかけられた言葉によって音はたたなくなった。
「ジロジロ見られると、あまりいい気はしないからやめろ」
「…すいません」
少年は謝ると、トンっと地面に着地する。
「悪いな少年。ここはアイツが死んだ場所なんだ。だから少年は向こうで死んでくれ」
まるで少年の命など、どうでもいいと言っている美しい女性を、ただただ見上げる事しか少年には出来なかった。
「ん?何だ少年」
何故この時名乗ったのだろうか。
俺は覚えていない。
「…少年じゃない。拓斗。桐島拓斗だ」