第1章 可能性
妹を救う。
この言葉にどれだけ自分が救われたか、どれだけ自分が絶望しただろうか。
もう、騙されるのは嫌だ。
「レオン?聞こえなかったのか」
プルプル震えながら下を向くレオンが気になり、ジャンヌはレオンに質問をした。
「…どうやって?」
問題はそこであった。
死の宣告という魔法は文字通り、いつ死ぬのかという事を宣告する洗脳魔法である。大抵は長い期間をかけて相手を洗脳していく魔法だ。
例えば、明日死ぬと宣告された場合、明日死んでしまうという恐ろしい魔法であるのだが、使い手はほとんどいない魔法であった。
また、死ぬということは簡単なものではない。
適正というのか分からないが、かかりやすい体質が存在しており、子供は特にかかりやすい魔法であった。
「簡単な話しだ。私がお前の妹の寿命を延ばしてやる」
レオンの質問に答えたジャンヌだが、その答えはレオンの質問とズレている。
どうやってと聞いたはずだが、レオンにとってそれはどうでもいい事であった。
妹が助かるのだ。
それ以外はどうでもいいではないか。
「死の宣告魔法はとても高度な魔法だ。残念ながら私では解いてやる事は出来ない。しかし、死の宣告の時間をずらしてやる事ぐらいなら私にでも出来る」
ジャンヌの言葉に、下を向いていたレオンは顔を上げた。
「お願いします!妹を、妹を助けて下さい。俺に出来る事なら何だってやります」
深々と頭を下げるレオン。
先ほどまでの表情が嘘のようであった。
「なら、私を殺してくれ」
「・・・・!?」
「どうした?何だってすると言ったのはお前だ。私を殺さないと妹は助からないぞ」
からかわれているのだろうか。
試されているのだろうか。
自分の言葉で妹の、いや、俺達兄妹の運命が決まる。
「・・・だ」「ん?何だ?」
ボソボソと呟く言葉に、耳を傾けるジャンヌ。
レオンは真剣な表情で、声で、ジャンヌに告げる。
「ひとまず保留だと言っている」
一体この少年は何を言っているのか訳がわからず、固まってしまうジャンヌ。
「だってそうだろう?ジャンヌが言っている事が本当かどうか俺には分からない。ならば、妹が本当に助かったのかどうかを見てみないと、答えは出せないだろ」
レオンの出した答えに、結論に、固まっていたジャンヌの時間が動く。
「ふふふははははは。やはり人間は面白いな。いいだろう。契約は成立だ。お前の妹の寿命を5年延ばしてやる」
「・・・5年」
「これが限界なんだ。その間に何とか妹を救う方法を考えるんだな」
5年が長いのか短いのか。
そもそも限られた時間の中で、見つかる保証などどこにもない。
しかし、不思議と不安など感じられなかった。
「必ず見つけるさ。見つからない可能性は、ゼロではないのだから」
「おっ?ようやく理解したようだな」
先ほどとはまるで別人のような答えを返すレオン。どうやら正しく導けたようだ。
「具体的な答えはまた聞くとして、私から注意する事が3つある」
「3つ・・」
「そうだ。一度しか言わないから良く聞けよ。1つ、今回の事は誰にも話すな。妹にもだ。誰かに話せばお前達兄妹は明日から病院に監禁されてしまうだろう」
死の宣告を受けた人間が、もしそれをはねのけたとしたら?研究対象に選ばれる可能性がある。
「2つ、寿命を延ばせるのは一度きりだ。つまり5年後に私に頼ったとしても、私にはどうする事も出来ない」
つまりはジャンヌ以外の人間を探した所で、寿命を延ばす事など不可能だということだ。
そもそも、寿命を延ばせる魔法など聞いた事がない。
「3つ、特別にヒントをやる。なぁレオン。世界には未だに発見されていない魔法がある」
「…その中に答えがあるのか?」
「そうだ。ちなみにそれは何か言ってみろ」
魔法が発見されてから数百年経った現代でも、発見されていない魔法は数多く存在している。
死者を蘇らせる魔法。
機械を使わずに空を飛ぶ浮遊魔法。
機械を使わずに海を自由に潜る水中魔法。
未来や過去に行く時空魔法。
絶対に死なない不老不死魔法。
「不老・・不死?」
何かに気づいたのか、途中で呟くのをやめたレオン。
「そうだ。他にも発見されていない魔法はあるが、死の宣告魔法に対抗するにはその魔法が効果的だとは思わないか?」
明日死ぬと宣告された人間が、永遠に生きられる魔法を持つとどうなるか?試してみる価値は確かにあった。
「…なぁジャンヌ。何でそこまでしてくれるんだ?」
見ず知らずの自分達の為に、何故ここまでしてくれるのかが分からず、レオンは疑問をジャンヌにぶつけた。
「簡単な事さ」
レオンの問いに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらジャンヌは言う。
「私が探し続けている魔法が、不老不死の魔法だからさ」
1000文字ぐらいでと思っていましたが、すいません。2000文字いってしまいました。