第2章 入学前夜
レオンは病院に来ていた。
説明する事もないと思うが、一応説明しておくと、レイナのお見舞いにである。
「お兄様」
「やぁレイナ。体調はどうだ?」
いつも通りの挨拶と質問。
当然、レイナはいつも通りの返しをする。
「ん?どうしたレイナ」
「…ごめんなさいお兄様」
いつも通りの返しをするレイナであったが、兄であるレオンの目は誤魔化せない。
素直に謝罪するレイナ。
「せっかくのお兄様の演説なのに…私は病院でお留守番です」
「ははは。演説だなんて大袈裟だな。ただちょっと挨拶するだけだよ」
「…それでもです。妹としては、聞きたかったのです」
明日は入学式があり、レオンは新入生代表としての答辞がある。演説である事に、間違いはないのだが、5分もかからない簡単な挨拶だけである。
それでもだ。
レイナは兄であるレオンの、自慢の兄の、晴れ舞台が見られない事を、残念に思っている。
「レイナ」
「…はい」
どうでもいい人間ならまだしも、相手はたった一人の家族である、嫌、レイも合わせたら二人か…とにかく、このままほっとける相手ではない。
レオンはレイナに声をかけ、レイナが自分の方を振り向くと同時に、声をかけた。
「春の暖かい風が吹き、綺麗な桜の花びらが舞う色鮮やかなこの季節」
「…??お兄様。それって?」
「あぁ。明日読むヤツだ。可笑しい所がないか、チェックしてくれ」
「は、はい!」
自分の為だけの答辞。
誰よりも先に、自慢の兄の話しが聞ける喜び。
独り占めできるという優越感。
病室に流れるこの幸せな時間が、レイナは何よりも大好きであった。
「…問題ありません。お兄様」
「よかった」
「私何かより、先生方に聞かれた方が良いのではないですか?」
「ん?あぁ。先生方や他の生徒がどう思おうと、興味がない。レイナが大丈夫だと、恥ずかしくない答辞だと、そう思ってくれたのであれば、それだけでいい」
「お兄様…大好き」
ガバッと腕にしがみついてくるレイナの頭を撫でながら、レオンは優しい笑みを浮かべるのであった。




