第1章 少年の願い
病院で出会った不思議な女性。
ジャンヌだと名乗る女性に嘘くささを感じるレオンであったが、そもそもどちらでもいい話しであった。
本当だったとしても、嘘だとしても、どちらも自分達には関係がない話しだ。
「なぁレオン。何で泣いていたんだ?」
「な、泣いてなんかいない!!」
「…そうか、なら、何で怒っていたんだ」
涙も見ているし、泣いた跡もバッチリ残っている。しかしこういったタイプの人間は、絶対に認めたりしないだろうとジャンヌは判断し別の質問をする。
「…妹が死んだ。いや、殺されたんだ」
「・・・・何で亡くなったんだ?」
少し出来てしまった間は、返す言葉が思いつかなかったからである。
ジャンヌの質問に、目つきを鋭くするレオン。
「父親がかけた呪いの魔法の所為だ!けど、この国なら、医療大国日本でなら、妹は大丈夫だったはずなんだ」
興奮気味に、いや、興奮しながら喋るレオンを見ながら、ジャンヌはしばらく声をかけられなかった。
「何が、医療大国日本だ!妹は大丈夫だと言ったくせに!クソクソクソクソ」
再び壁を殴りつけに行こうとするレオンの手を掴み、ジャンヌは質問する。
「では、医者にムカついているのか?それとも、死の宣告をかけた父親にムカついているのか?」
「両方だ!!」「レオン!!」
吐き捨てるように返す答えを聞いて、ジャンヌは強めにレオンを呼ぶ。
「私にはお前が、そう考えているとは思えない。子供ではないお前に真剣に話しをしている。分かるな?」
子供扱いせずにきちんと話している。
真剣に話しを聞いている。
真剣に話しをしている相手に、嘘をつくなとジャンヌはレオンを導いている。
「…無力な自分自身にだ。本当は、俺が、レイナを、レイナを助けてやりたかったんだ」
無力な自分。
たった一人の可愛い妹さえ守ってやれない自分。
何が魔法だ。何が魔法は奇跡だ。何が神さまは見ているだ。
「…な、何をする!?」
「そうか。話しをしてくれてありがとう」
掴んでいた手をグッと引き寄せ、ジャンヌはレオンを優しく包み込んだ。
抱きしめながら、ジャンヌはレオンの耳元で囁いた。
「なぁレオン。妹が亡くなったのは今日か?」
「…今は集中室で治療中だけど、助かる見込みは1パーセント未満だと言われた」
「…ふふふ。なぁレオン。可能性がゼロでないのなら、助かるかもしれないぞ?」
ジャンヌの最後の言葉に、落ち付きかけていたレオンに火がついた。
「気休めはよせ!!そんなもの、それこそ」
「奇跡ではないか、だろ?レオン。人間という生き物は常に奇跡を残している。起こしているんじゃなく、残している。例えば空を飛ぶ飛行機や海を渡る船、お前を照らしている光だって人間が発明したものだ」
「だから何だっていうんだよ」
「お前は電気が作れるか?いや、電気という物が作れるという可能性を信じるか?だが、発明したアイツはその可能性を信じた。可能性はゼロに等しく、周りからは変な目で見られながらもそれでもアイツは…」
そこまで言いかけ、ジャンヌは静かに首を横に振る。
「…話しがズレてしまったな。要は可能性というものがゼロになるのは、可能性を信じられなくなった時だという話しだ」
「そんなの、意味何てないじゃないか」
「では聞くが、助かる可能性がないお前の妹の為に、医者は一体何をしているのか?」
「・・・それは」
「助かる患者を後回しにしてでも今現在、お前の妹の為に大勢の魔法医師が科学医師が治療にあたっている。彼等は可能性にかけているんじゃないのか?なぁ?答えろレオン!!」
優しく導くのはやめた。
厳しく導いてやるさ。
かつて私がそうだったようにな。
「俺は…俺は…妹を助けたいだけなんだ」
レオンの出した答えは、ジャンヌの出した質問の答えとずれていた。
ジャンヌはその事をあえて指摘しなかった。
何故医師達が治療にあたっているのかという答えを、レオンはきちんと理解していると分かっていたからだ。
「お前の願いを叶えてやろう」
少年の願いは一人の魔導師によって、叶えられる事となった。