第1章 レイの願い③
攫われて、油断した所を背後から狙う。
人が油断するのは、一瞬でも隙を見せた時であると、最初の時に学んだ。
隙を見せるとは?簡単な話しだ。
相手を侮った時である。
だから、もう抵抗する意思がない事を身体中からアピールし、相手が目をそらした一瞬で、背後に回りこんで喉をかっ切る。
人間は簡単には死なない。
心臓を刺しても、数秒は動き続ける生き物だ。
だからこそ、一瞬で背後に回りこむ技術が必要になってくる。
"韋駄天"
そう名付けられたこの技術で、私は人を殺す。
本来韋駄天とは、仏教の神さまが由来となっており、よく走るという意味である。
神さま…ならば何故…
そんな疑問を抱きながら、私は今日も走り続けている。
「ぐわぁぁあ…ち、ちくしょー」
喉をかっ切った私は、いつものように相手を見下ろしていた。
ダン!っという聞き覚えのある音が鳴る。
「ゲホ、ゲホ、ざ、ざまぁみやがれ」
喉から血しぶきを撒き散らし、男はゆっくりと後ろを振り返る。
「ゲホガハ…お、お前…な…にも」
ゆっくり前に倒れる男を、無言で眺める私。
特に何も感じる事などない。
お腹に空いた穴など気にしない。
何故なら私は…ロボットなのだから。
いつも通り命令され、いつも通り任務を繰り返す。私がなくなる事はない。
バッテリーを変えるか補充し、壊れた所は部品を変える。
一連の流れはこんな感じであった。
ずっとこのままなのだろうと考えていたある日の事であった。
「今日はいつもと違う任務だ」
「違う任務ですか?」
「そうだ。お前はいつも通り任務をこなせばいい」
そう言って男は私に地図を渡す。
「写真では…ないのですね」
「あぁ。写真は撮れなかったからな」
不思議に思う私ではあったが、別の任務と言われた以上、これが初任務となる…ならば、疑った所で意味はない。
「かしこまりました」
「インカムをつけていけ」
渡されたインカムをつけ、私は闇へと消えていく。
地図に書かれた場所は、普通の民家であった。
小屋があり、周りには牛がいる小さな民家。
「中には女がいるはずだ…消せ」
耳から聞こえる指示を受けた私は、何のためらいもなく部屋をノックする。疑う事などない。
なぜなら任務を遂行した後、指名手配犯だという認証が狂った事など一度もないのだから。
「は〜い。どなたですか?」
ゆっくりと開いた扉から、女性は首だけを外に出して、辺りを見渡していた。
その光景を上から覗いていた私は、ナイフを下に向け、一気に女性の後頭部めがけて落下する。
声にならない悲鳴を聞きながら、私はナイフを引き抜いて、いつも通り認証を始める。
【データショウゴウデキマセンデジタ】
「……え!?」
そんな訳はない。
いつも任務を遂行させ、こうやれば必ず…しかし、結果は同じであった。
「モ、モリ…様」
「ご苦労。後は中に誰かいないかを確認し、いたら消せ」
そう言われた後インカムからは、もう何も聞こえなくなっていた。
きっと何かの間違いだ。
でなければ…私は…!?
中から泣き声がする。
ゆっくりと中を覗いた私は、絶望する事となる。
中で泣いていたのは、赤子であった。




