第1章 出会い
医療大国日本と呼ばれるようになったのは、今から何百年という昔の話しである。
魔法が発見された事により、医学は凄まじい進歩を遂げた。例えば骨折をしてしまったとしても、約1週間で完治するようになったり、医療ミスによる死亡事故なども、ほぼほぼゼロに近い数字となっている。
そんな医療大国日本のここは、国立魔法科学病院。その第1待ち合い室にて、激しい音と怒号が鳴り響いていた。
「クソクソクソクソ、クソーーーー!!!」
怒号を発しているのは一人の少年であり、激しい音は少年が殴りつけている壁から発せられている音であった。
「何が医療大国日本だ!何が、何が、何が!!」
少年の右手から溢れ出す血。
悲しみの方が大きい少年にとっては、痛さなど全く感じられなかった。
「そんなに殴ったらこの建物が崩壊してしまうぞ」
何発目か分からないぐらい殴っていると、不意に後ろの方から声をかけられた少年であったが、建物が崩壊する事などありえない。つまり、からかわれているに違いないと判断し無視をした。
「泣いているのか?男なら泣くなと教わらなかったのか?」
そんな事などお構いなしにと、再び声をかけられる少年。流石に鬱陶しい。今は一人にしておいてほしいと思った少年は、声がする方へと体を向けた。
体を向ける少年は、一瞬固まってしまう。
声質から女性だろうと思っていたのだが、その女性は見た事もない美しさを兼ね備えていた。
「・・う、うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい」
「ふふふ。うるさいのはどっちだ。なぁ少年?名前は何ていう?」
子供のように駄々をこねる少年。
少年の目線に合わせる為、しゃがみ込みながら女性は再び声をかけた。
「名乗る気なんてない!ほっといてくれ」
「ふふふ。元気がいいな坊や。まぁ聞け」
ほっとけという言葉を無視し、少年の右手にハンカチを結ぶ女性。
「私はジャンヌ。ジャンヌ・ダルクという」
「・・バカにしているのか」
「ん?何故そう思う」
「空想上の人物だろう」
「違うな。間違っているぞ坊や。彼女は実在していた」
「証拠は?」
少年はジャンヌをジト目で見つめながら証拠を出せと言う。その言葉を聞いたジャンヌは、待ってました!といわんばかりに、ニッコリと微笑むと、人差し指で自分を指しながら声をかけた。
「坊やの目の前さ」
「ふざけるな!」
気づけば少年は、ジャンヌを押し倒して馬乗りの状態になっていた。
ジャンヌはピクリとも動かなかった。
イラッとしてしまったのは事実ではあるのだが、所詮は子供と大人。子供の自分が押し倒そうとした所で、押し倒せるとは思っていなかった。その為、この後どうしていいのかが分からず、少年もまた、ピクリとも動かなかった。
「なぁ少年。ジャンヌ・ダルクが存在しないと何故そう思う?誰かにそう教わったからか?なら、魔法はどうだ?世界の人々が魔法は存在しないと言っていた。しかし、魔法は現に存在するではないか。少年が考えている事や教わっている事だけが全てではない」
馬乗りの状態で、少年はジャンヌを見下ろしていた。ジャンヌは仰向けの状態であったが、特にそれを気にした様子もなく真剣な瞳、真剣な声で、少年に語りかける。
「・・少年じゃない」
「では何という?」
「レオン。涼宮レオンだ」
何故この時ジャンヌに名乗ったのか。
今となっては分からない。
しかし、おそらく、きっと。
子供だった自分に対し、真剣な表情、声で、相手をしてくれたジャンヌの優しさに、心を開いたのだと思われる。
それは遠い過去。
ジャンヌとレオンの出会いであった。
ジャンヌ・ダルクは実在しているのか?
色々諸説はありますが、実際は存在していたとされています。
私調べになる為、間違っていたらすいません。