第1章 ロボットが生まれた日
地下室での戦闘は、直ぐに終わりを迎える。
一方的すぎて、そもそも戦闘と呼べたかどうか。
「…大丈夫ですか?」
白い煙は消え、赤く染まった両目はもとに戻っている。
「大丈夫だと言うしかないだろうな」
手加減されていたのだろう。
手加減された攻撃を受け、大丈夫じゃないなどとは言えないレオンは、差し出された手を掴んで立ち上がった。
「しかし、レイが戦闘ロボだった事に驚いたな」
ロボットには色々と種類がある。
ペット型ロボットや、お掃除ロボット。
ペット型ロボットは、ペットが飼えない人達から人気のロボットである。
お掃除ロボットはその名の通り、部屋を掃除するロボットである。
これらは元々昔からあったロボットであったが、化学の発達により、次世代型のロボットが誕生する事となる。
それが、レイのような家事万能型ロボであった。
第1シリーズは完全なロボット型だった為、設定された事以外何もできないロボットであった。
第2シリーズは、人口知能を搭載させたロボットであり、人口知能がある分、基本的には自らが進んで家事を行うロボットであった。
レイは第2シリーズ型である。
しかし、同時に戦争が起きた事により、戦闘型のロボットが誕生する事となる。
二つのロボは人口知能が搭載されているので、戦闘型のロボが、家事を覚えたのだろうと推測する。
「少し違います…元々私は、家事万能型ロボットとして開発されました…少し昔話しをしましょう。レイナには内緒でお願いします」
うなずくレオンとジャンヌを交互に見てから、レイは口を開いた。
その昔、私はある男の家で目を覚ましました。
目を覚ますというより、起動したというべきでしょうか…とにかく、目を開けた私の目の前には、男の人がうっすらと笑みを浮かべて座っていました。
私はたずねます。
ご用件は何でしょうか?と。
男は言います。
今日から私に奉仕しろと。
奉仕という言葉の意味を脳内で処理する私に向かって、男は続けます…まずは体を洗ってくれと。
だから何も服を着ていないかったのかと思いながら、私は男の体を丁寧に洗いました。
男は私に対し家事などを求めず、ただの鑑賞用ロボットとして私を求めたのです。
毎日、毎日、男の体を洗う日々。
こうやって服を着る事もありませんでした。
嫌悪感を抱きながらも、毎日私は男を奉仕します。
しかし、ある時私は売られてしまうのです。
その時は理解が出来ませんでしたが、今思えば第3シリーズが原因だったのだと思います。
「待て…それでは…いや、何でもない、続けてくれ」
思わず口を挟むレオンであったが、その先の言葉を彼は口にはしない。いや、できない。
レイは一呼吸ついてから、再び喋り始めた。
それからは、全く同じ事の繰り返しです。
しかし、レオン達に出会う前の方は、違いました。
目を覚ました私は彼を見て、いつものようにたずねます。
ご用件は奉仕ですね?と。
すると、いつもとは違った返しを私は受けました。
何を言っている、奉仕されるなら本物がいいに決まってるではないか。
薄っすらと笑みを浮かべ、男は続けます。
今日からお前は我々コウモリの部下だ。
「コウモリだと!?」
「知っているのか?」
「今から100年ほど前に誕生した魔術結社だ。表向きは、魔法を使った環境保全を掲げているが、裏では相当悪どい事をしていた組織だ」
「その通りです。自分達に反対する者達は、次々と暗殺する集団です」
コウモリという組織。
右肩にコウモリの羽の刺青があり、目的は金儲けです。
そこで私は戦闘訓練や暗殺術などを受けました。
その後、私はいつものように売られ、レオンに買われてレイナにあったのです。
「…質問があれば聞きます」
レイの言葉を受け、レオンが口を開く。
「レイは記憶を消したりしないのか…」
「そのような行為に、意味はありますか?」
消す意味は何かと、問われるレオン。
意味ならたくさんあるだろう。
忘れたい過去、消したい記憶。
人は皆、それらを抱えている。
「レオン。忘れていい記憶など、ないのではないでしょうか?」
「…何故、そう思う」
「初めて泣いた日の事を覚えていますか?初めて怒った日は?初めて笑った日は?初めてなのですから、記憶に残っていてもいいはずです」
レイの言葉に考えるレオン。
「では、何故覚えていないのか。答えは簡単です。忘れたからです」
「つまり、忘れたい記憶や消したい記憶は、いずれ消えると?」
「逆に言えば忘れたくない記憶や消して欲しくない記憶は、忘れたりしません。初恋の人だったり、付き合っていた異性だったり…話しが長くなりましたね。つまり」
レイは長々と話した後はをこう締めくくる。
忘れるということは、忘れていいものなのです。
忘れられないということは、まだ忘れてはいけないものなのです。
忘れたいのなら、忘れていいものになるぐらいの時間が必要になります。
その時間を使って、どうか忘れていいものになるぐらいの行動を起こして下さい。
きっといつかは、忘れていますから…と。