第1章 レオンの部屋
レイに雑用を命じ、ジャンヌと一緒に2階へとやって来たレオン。雑用といっても、大事な仕事だった為、レイは文句を言わなかった。
「ん?部屋の中に入れてくれないのか?」
レオンの部屋と書かれたプレートがぶら下がっている扉の前で、レオンは壁に背中を預けていた。
部屋の中ではなく、廊下で話そうという意思表示だとジャンヌは理解する。
「…部屋の中は、その、散らかって、いるからだな」
理解したうえでジャンヌがたずねると、歯切れの悪い返事をするレオン。
「おいおい。ここで話したら下に聞こえるぞ」
それならばレイナの部屋で話そうと、ジャンヌがレイナの部屋に足を向けた所で、レオンが口を開く。
「…わかった。ちょっとだけ待ってろ」
幾ら兄妹といえ、知らない間に部屋に入るのはマズイ。逆の立場なら嫌だし、レイナならそんな事を絶対にしないだろうと考えての事である。
そもそもレイナの部屋はレイが管理している為、綺麗な状態を維持しているのだが、あまり部屋に入らないレオンは知らない事であった。
「お、おい!待ってろと言っただろ!」
待つよう伝えた筈だが、全く聞く耳を持たないジャンヌは、部屋に入った感想を述べる。
「これは、これは。驚いたな」
散らかっていると言っていたが、ここまでとは思わなかったジャンヌ。また、散らかっていると言っていた為、散らかっているのは当然なのだろうが、散らかっている原因に驚く。
「…全く。日本語という言葉を知らんのか」
「あいうえおというひらがなやカタカナ、漢字など、他国とは異なる言語だろ?」
「屁理屈を…」
「とりあえず私が座る場所を確保してくれ」
そう言ってしゃがみ込むジャンヌは、足元に大量に散らばっている紙を拾い始める。
飲みかけのペットボトルや、食べ終わった弁当、お菓子などは全くなく、散らかっていたのは、くしゃくしゃに丸められた大量の紙であった。
「俺がやるから、とりあえずイスに座っててくれ」
普段から愛用している机にイス。
愛用している為、直ぐに座れる場所はそこしかなかった。
「しかしまぁ…随分と研究したな」
「……あぁ。当然だろ」
壁には大量の紙が貼られている。
散らかっていた紙は、それの残骸であった。
「閃光魔法、催眠魔法、洗脳魔法…なるほどな。死の宣告に対抗できる魔法を調べていたのか」
「あぁそうだ。しかしジャンヌのおかげでこれらは要らない物となった」
資源ゴミと書かれたゴミ袋に、紙を突っ込んでいくレオンは、とても嬉しそうな顔をしていた。
自分の努力で見つけた結果ではない。
ジャンヌという他人からのおこぼれなのかもしれない。
しかし、レイナが助かる事が最優先なのだから、そんなものにこだわる必要があるだろうか。
答えはNOである。
「ん?私がいた所で何も変わらないぞ」
「え?」
ピタリと動きが止まるレオン。
「不老不死の魔法を探している、いや、一緒に探そうという意見は一致している。しかし、不老不死のありか、存在を、私が知っていると思うか?」
知っていたら、レイナの寿命を延ばす代償に、一緒に探そうなどとは言わないはずである。
勿論、ありかは知っているが、一人では困難な場合は別なのだが、それならば探そうではなく、付き合ってくれが正しいだろう。
「でも、良かったじゃないか。おかげで知識は増え、来年は主席…か」
ジャンヌの言葉の意味が慰めなのか、単に驚いているからなのか、今のレオンには分からなかった。
「それで、レイはどうするんだ?いつも一緒にいる以上、誤魔化せないぞ」
「……あぁ。レイには正直に話すさ」
ジャンヌの言葉に、固まってしまっていたレオンは、言葉を返す。
レイならきっと理解してくれるはず…
レイから呼ばれたのは、丁度その時であった。