第1章 涼宮家
結局、ラッキーセットを買わされる羽目になったレオン。ラッキーセットを買ってもらえたのが嬉しいのか、ニコニコしているジャンヌ。
ラッキーセットを50個も買ってシールを集めるぐらいなら、50個分のお金で、抱き枕を買えばいいのにと思うレオンは、不意に声をかけられた。
「ふふふ。ありがとうレオン」
銀色に輝く髪をなびかせ、満面の笑みでそう言ってくるジャンヌ。
「……もう少しで着く」「そうか」
少しの間が出来てしまったのは、その美しい光景に見惚れていたからであった。
「あの一軒家がそうだ」
それを誤魔化すように、レオンはジャンヌに自分の家の事を話し始めた。
レオンとレイナの自宅は、一軒家である。
1階にお風呂やトイレ、台所やリビングなどがあり、2階にレオン、レイナの寝室と、良くあるタイプの一軒家であった。
他と違う所があるとすれば、地下室があるぐらいだろう。
しかし、現代ではあまり珍しくはない。
魔法者や科学者が増えた事により、魔法者や科学者向けの一軒家が増えている。
魔法の研究であったり、MAGの調整、魔法者や科学者のトレーニングなど、大きな音を気にしない為に地下室が作られている。
【閑話休題】
MAGとは、Magic Assist Goodsの略であり、魔法を補助する道具の事である。
魔法力を抑えたり、溜めたり、調整したりと、様々な役割りを持った道具であった。
このMAGにより、人類の夢である"空を飛ぶ"が、実現されている。
具体的には、腰や尾骶骨辺りにMAGを装着し、風魔法によって実現している。
風魔法を一定時間、上手くコントロールする事は難しい。そこでMAGの出番となるのだ。
【閑話休題終わり】
一軒家には現在、レオンとレイナしか住んでいなかった。
「…そうか」
他の家族、特に母親や父親について質問していいのかが分からないジャンヌ。
レオンはそれに気づいていたが、あえてその事を話さなかった。
家族構成について話したくないという理由もあるのだが、最も大きいのは、やはり父親について話したくないという理由が強かった。
「…着いたぞ。いいか?まずは手洗いうがいをしろよ?それから、靴は脱いで下駄箱に。洗面台は部屋を入ってすぐ右の扉に…っておいジャンヌ」
「分かった、分かった。お邪魔するぞ」
まるで母親のようにグヂグヂ言い出したレオンを置いて、さっさと部屋に入るジャンヌ。
「待て。何も分かってないだろ?お、おい!靴を入れて行け」
ポイポイとまではいかないが、靴を脱ぎっぱなしにして、ジャンヌは洗面台がある部屋に入って行った。
「…ったく。何が分かっただよ」
自分も靴を脱ぎ、下駄箱に靴を直し終わった所で、レオンは声をかけた。
「レイ、起動せよ」
声をかけたのはジャンヌにではなく、自宅の家事全般を任せているお掃除ロボットにであった。
レイという名前は、レイナがつけた名前である。
レイナの頭の部分からとった名前であり、この一軒家に引っ越して来たあの日、兄妹二人で頑張ろうと誓った日、零から始めようと誓った日。
零=レイ。
2つの意味から、レイナが名付けた名前である。
ちなみに、レイを本当の妹のように可愛いがっているレイナ。その為か、レオンよりレイナの命令を聞く事が多い。
「お呼びデスか?」
「呼ばれたから来たのではないのか?」
「…お呼びデスか?」
「……まぁいい。コレを温めてテーブルに並べて置いてくれ」
人口知能を搭載したロボットということで、賢いという反面、扱いが面倒臭いという面も強かった。
「かしこまりました。ご主人様」
「待て。いつ、誰が、何処で、ご主人様などと呼べと言った」
「…チッ。分かった分かってるわよ。今日だけ特別なんだからね」
「…何でもいいから頼んだぞ」
まさかレイナが教えているのか?だとすれば、それはそれで何とかしなければいけないと思いながら、ワクドナリオの袋を手渡した。
「…レオンはツンデレが好き」
何かをインプットしたのかは、分からないレオン。しかし、何でもいいと言った手前、注意する事も出来ない。
所詮はロボット。
家事さえ完璧ならいいと、この時のレオンは考えていた。