第1章 好物
自販機におでんがあった事や、その際どうやって食べるのかと熱く議論をしていた二人。と言っても、熱くなっていたのはレオンだけであり、ジャンヌは途中からあまり聞いていなかった。
「…分かった分かった。お前の言うように、缶の裏側に小さいプラスチック製のフォークが付いていたが正解だろう」
「待てジャンヌ。その投げやりな態度は何だ」
投げやりになりたくもなる。
確率論や予想統計データなどを話された所で、ジャンヌに分かる訳がないのだから。
「そんな事より、レオン。お前の家は何処だ」
「何処だ…って、まさか付いてくるのか?」
「当たり前だ。私の願いを叶えてくれるんだろ?」
レオンはジャンヌと約束をしている。
その約束のおかげで、レイナの寿命は伸びた。
「…しかしだな」
「とりあえず腹が減ったな」
ころころと話題が変わる女だとレオンは思ったが、レオン自身お腹は空いていた為、特に何も言わなかった。
「ならば何処かで食べて行くか」
そう言いながら時間を確認すると、時刻は夜20時を過ぎていた。
「子供は寝る時間だな」
「…うるさい」
レオンはまだ小学7年生であり、夜中出歩ける時間は21時までである。
人口の軽減により定められた法律であり、具体的には中学校の廃止、小学校を7年制、高校を4年制にとなっている。
小学生は21時まで。高校生は23時までが、夜中に自由に出歩ける時間であった。
しかし、例外もある。
高校生になると、任務制度というものが存在している。
任務制度とは、警察や軍からの依頼を受ける代わりに、授業を免除するという制度であった。
これは、人口の軽減に伴う処置である。
例えば、迷子の猫を探すなどといった簡単な任務は、高校生に依頼されるケースが多い。
ただし、任務制度を受ける事の出来る生徒は限られており、それは学年ランキングによって決まる。
任務制度を受けている場合のみ、時間に制限はない。時間がきたからと、任務を放り出す事などあり得ない。
学年ランキングは言葉通りの意味である。
入学試験の入試結果によって決まる。主席〜10位までの生徒に対し、任務制度の権限が与えられる事となる。
「何か買って帰るか」
自宅の冷蔵庫の中を思い出したレオンは、ジャンヌに買い物をして帰ろうと提案した。
「そうだな…ならばハンバーガーを買って帰るか」
「待て。話しの流れ的におでんではないのか?」
「馬鹿な事を聞くなよレオン。ハンバーガー以外の選択肢があるものか」
「いや、あるだろう」
逆に言わせてもらうのであれば、ハンバーガーしか選択肢がないのは何故なのか。
しかし、レイナの件でお礼をしたいと考えていたレオンは、ジャンヌの意見に賛成することとした。
「しょうがない。駅近くのワクドナリオでいいか?」
「バーガークイーンでもモズバーガーでも構わんさ」
ワクドナリオでいいかを聞いていると言うのに、それでは何処がいいのか分からない。
恐らくハンバーガーなら何処でもいいのだろうが、出来るなら場所を指定してほしい。
「仕方がない。スマイルを貰いに行くぞレオン」
どうやらワクドナリオで良かったらしい。
どの店でもスマイルは貰えるけどなと言うレオンの言葉は、今のジャンヌには届かないのであった。