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RIYーリィー  作者: カザ
本章
6/14

act02 はしゃぐなら履き慣れた靴で(下)

 アリスがシスを質問責めにしている最中、シイナはぼんやりと外を眺めていた。

 石畳の程よい揺れの中、目に入るのは活気のある人々と整備された街並み。

 パーティ会場があった中央区を抜け、アリスの自宅がある北区に入った。

 北区は建国当時からの名家や富裕層が住まう住宅地になっている。


「ん?」


 ふと、目に入った光景に小さく声が漏れた。

 門を曲がった先20mほどのところ、道の真ん中に4~5人の人がいる。


「隊長、人が」


 見たままの様子を伝えようとしたシイナだったが、すでにシスも鋭い眼差しを外に向けていた。

 大通りから逸れた脇道。

 左右には高い建物。

 罠を仕掛けるならこの場所、という所で道を塞ぐように人がいる。

 引き返すように指示を出そうとしたシイナだったが、その耳にこだましたのは殺意の籠もった一言だった。


“やれ”


 同時に弓の風切り音が迫る。


「駆け抜けろっ!!」


 異変に気付いたシスの一声で、反射的に御者が馬に鞭を入れた。が、次の瞬間には無数の弓矢が降りかかる。

 御者に防ぐ術はなく、ヒヒイィインっという鳴き声と共に馬車が大きく左右に振られた。

 弓矢が刺さった馬が痛みに体をよじり、パニックに起こしたのだ。

 馬車は刺さった火矢により煙を吹き、ガタンッガタンッと激しく揺れ、馬が倒れるのと同時に横転した。

 激しい揺れが収まれば、シスとシイナはすぐに体制を整えアイコンタクトを取る。


「アリスさん、怪我は?」


 シイナはすぐにアリスの様子を窺ったが大きな怪我はなさそうだ。


「はい……大丈」


「シイナ、援護するからアリスさんを連れて外に出ろ」


 アリスが言い終わる前に、シスの指示が飛ぶ。

 もう猶予がないのだ。

 すぐ側まで敵が迫っている。

 足音から察するに、5人。

 先ほど道を塞いでいた者達で間違いないだろう。


「行くぞ」


「はい」


 急な展開にも関わらず、冷静に対応するのは日頃の訓練がそうさせるのか。

 シスが勢い良くドアを開けると同時にナイフが突き出された。

 だが予測していたのか、シスはそれを軽くいなして相手の顔面に肘鉄を食らわせた。

 素早く外に出たシスにシイナも続く。

 敵は予想通り5人だが、つい先ほどシスが一人倒したので、残り4人。

 これならアリスを馬車の中に残して、二人で敵を片付ければすぐ終わるのに、と思ったシイナだが馬車が燃え始めてるのを見て納得した。

これじゃ中にいる方が危険だ。


「アリスさん、手を」


 シスが敵の相手をしている隙にアリスを馬車から離す。あと数分もしないうちにこの場所の片は付くだろう。

 アリスの安全を確保をし、地面に投げ出されていた馬車の御者の元へ向かう。どうやら気を失っているようだが、命に別状はなさそうだ。

 御者を引きずり、アリスの元へ戻るとシイナはぎゅっと腕を掴まれた。


「アリスさん?」


 怖いのか、体が小さく震えてる。

 自分の命が狙われる、そういう状況に遭うのは初めてなのか。


 ザッ…ザッ……


 忍び足で近寄って来る奴が一人いる。

 シイナ達が気付いていないと高をくくっているのか、背後まできて息をつく。


「この悪魔がぁッ」


 ナイフを振りかざすと同時に発せられた言葉にアリスはビクッと肩を竦ませて、目を見開いた。

 だが、シイナは平然と男を見据えた。


「バレバレ」


 もっと静かに近付かないと、シイナの耳には足音が大きすぎる。

 近付いてくる動き、ナイフを振りかざす動きは、少しケンカ慣れした素人だ。軽くかわしてカウンターでお終い、そう思っていたシイナだが、一つだけいつもと違うことがあった。

 ナイフを避けようとした時。


「ッ」


 足首に痛みが走る。

 グキッと。

 そう、足を捻りました。


(最悪っ)

 

 スローモーションのように動くナイフの男。動きは全て見えている。普段なら寝ぼけていても避けられる。なのにバランスを崩したせいで斬られる。

 まぁいいや、致命傷にはならない。その後倒せば問題はないと頭を切り替えた。


「シイナっ」


 その時、叫び声と共に現れた背中に過去の記憶がフラッシュバックする。10年前も同じようにこの背中に救われた。


「……た」


 シスを呼ぼうとした瞬間、ゴギィっと嫌な音が耳にこだまする。シスの右拳がナイフの男の顔面にめり込んだかと思えば、建物まで吹っ飛んで行ったのだ。

 あれは顎砕けたなぁ…などとナイフの男を憐れんだのも束の間、振り返ったシスと目が合ってシイナの表情が強張る。

 だが身構えるシイナの横を素通りし、シスはアリスの前に立った。


「危険な目に遭わせてしまい申し訳ないです」


「……い、いえ、守って下さってありがとうございます」


 頭を下げるアリスはまだ落ち着かない様子だったが、怪我はない。アリスの無事を確認してシスは一つ息を吐いた。


「隊長!シイナ!」


 その時、4人の隊員達が駆け寄ってきた。

 シイナ達と同じくアリスの護衛任務に付き、先回りして自宅の警備に回っていた者達だ。


「無事でしたか」


 シスの前に立つ男ーアレックス・ブロウーは顔の右半分、額からこめかみにかけて刺青が入った強面の顔をしている。身長も大きく威圧感のある風貌ではあるが、BF第02小隊の副隊長を勤める面倒見の良い男だ。


「あぁ……お前たちの方もか」


 アレックスのシャツに飛んだ返り血を見てシスが頷く。


「はい、自宅の方に8人が待ち伏せしていました。なのでこっちにもいるだろうと駆け付けたんですが、案の定でしたね」


 気絶させた賊を縛り上げる他の隊員たちを横目に、アレックスはやけに後ろに構えているシイナの姿に気が付いた。

 そして何やら眉間に皺を寄せている隊長殿。

 少し考えてアレックスは二人にした方がいいのだろうと思い適当な言い訳をして、その場を離れた。

 その直後、シスは振り向きシイナの目の前で足を止めた。

 シイナは奥歯を噛み締めながら顔を上げた。


「足は?」


「軽く捻っただけなので、問題ありません」


「嘘つくな、ど阿呆」


 シスは間髪入れずシイナの額を小突く。


「問題ないのは本当ですっ」


「黙れ、そんなに腫れてて問題ないわけがないだろうが」


 シイナがちらっと視線を落とせば、シスの言うとおり赤く腫れてきている。


「今日は先に帰れ」


「大丈夫で……す」


 鋭い視線に言葉が詰まる。


「帰って休め、命令だ」


 命令と言われてしまえば、部下であるシイナに反論の余地はない。


「……了解です」


 慣れないヒールとはいえ、なんの言い訳もできない。ヒールなんて二度と履くものかと、シイナは裸足で歩き出した。


「待て」


 だが、少しも歩かないうちにシスに肩を掴まれ、足を止めざるを得なかった。振り向けば、眉をひそめるシスがいた。


「裸足で帰るつもりか」


「ヒールを履くより何倍も楽ですから」


 意地を張るならまだしも、厄介なことにシイナは本気でそう思っている。シスは頭をガシガシと掻きながら溜め息をついた。


「お前は本当に阿呆だな」


 その言葉にヒクっとシイナの頬が引きつる。


 えーえー、私は確かに阿呆ですよ!でも裸足で帰ることでアナタ様に迷惑をかけるわけでもないのに、そんな言い方しなくたっていいだろうが、くそっ。

 ぎゅっと拳を握り締め、シイナはなんとか心の声を押さえ込んだ。


「今、迎えを呼ぶから大人しく待ってろ」


 そう言ってシスは背を向けて行ってしまった。


「……だっさ」


 情けなさすぎるから黙って帰らせて欲しい。同じBF、同じ小隊とはいえ、隊長の背中はまだまだ遠い。

 シイナは溜め息と共に小さく呟いた。

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