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RIYーリィー  作者: カザ
序章
4/14

03

 目を開けると、真っ暗な空が映った。まだ夜は続いているらしい。

 周りはざわざわと騒がしく人が行き交っている。頭がぼんやりしているからか、体が揺れている気がする。


「ぐッ」


 体を起こそうとしたが、あまりの激痛に断念して力を抜いた。ゆっくりと呼吸をして僅かに痛みを逃す。


「あれ、もう目を覚ましたのかい?タフだねぇ」


 降ってきた優しい声色に、ジィンは眉を潜める。自分を覗き込む男は初めて見る顔だ。月明かりに浮かぶ金色の髪に空色の瞳、声色と同じく優しげな顔をした男だ。


「俺はリアヌス軍の人間でキサギ・グランデス。で、ここは船の上」


 ジィンは険しい表情のまま、金色の髪に空色の瞳の男ーキサギ・グランデスーの言葉を咀嚼する。

 リアヌスというのはU2地区があったローズトライセン王国の隣国の名だ。キサギはそこの軍人。そして、船というのは川や海といった水の上を渡る物だったはず。この揺れは水の上だからなのか。


「俺はジィン・ウルドだ。俺は何故、ここにいるんだ?」


 ジィンの最後の記憶は、クレイブに乗った男達の多動的な攻撃に翻弄され、傷を負い血を流しすぎて意識が遠退いたところまでだ。


「よろしく、ジィン。あの時の君は6人のローセン騎竜兵に囲まれて絶体絶命だった。そこに俺達の部隊が駆け付け、君を助けた」


「他に、助けられた人間は!?」


 命は無いと覚悟した状況で助けられたというなら、シイナとヨウラは必ず無事でいるはずだ。確信にも近い希望を持ってキサギに尋ねたジィンだが、固い表情に嫌な胸騒ぎがした。


「俺達の部隊が助けたのは君だけだ」

 

 ジィンは愕然とした。

 自分だけが助かるなんて、まさか。

 血の気が引いて、体が震えそうになるのを必死に堪えた。

 

「もう定刻になる、船が出る時間だ。……アイツは何をしてるんだか」


 青い顔をするジィンの肩をそっと叩き、キサギは小さく息を吐いた。

 部隊を離れ単独行動した友の姿を思い浮べていたキサギが、ふっと安堵したように頬を緩めた。


「君の知り合いかどうかはわからないけど、一人背負われて来たよ」


 キサギの言葉にいてもたってもいられなくなったジィンは、その肩を借りて起き上がった。

 ジィンの視界に映ったのは、銀髪の男に背負われる黒い髪の少女。見間違えるはずもないシイナの姿だった。


「……シィ…」


 零れたジィンの声に、知り合いだとわかったキサギは肩の力を抜いた。


「ジィンっ」


 ジィンの姿を見つけたシイナは銀髪の男ーシス・ライアローーの背中で暴れた。船に乗った所でようやく背から下りたシイナは右肩を剣で貫かれた痛みを感じさせることなく、満身創痍のジィンに駆け寄った。


「ジィン、ジィン、ジィン」


 ぎゅっと抱き着いたシイナは何度も何度もその名を呼んだ。終いに涙をぽろぽろと零してジィンの肩を濡らしていった。

 ジィンがシイナの涙を見たのは、思いがけずこの時が初めてだった。だから、その涙の訳がわかってしまった。


「ごめん……本当に、ごめんなさい、私、私のせいで、ヨウラは…」


 途切れ途切れに紡ぐ言葉の先を聞きたくなくて、痛む体を無視してジィンはシイナを強く抱き締めた。


「ヨウラは、最期に何か言ってたか?」


 殊の外、冷静だったのはシイナが自分の分も泣いてくれたからだろうか。ジィンはゆっくりとはっきりとした口調で尋ねた。


 ジィンの穏やかでありながらしっかりとした声に誘われて、シイナは深く深呼吸をした。そしてヨウラの最期を思い出す。

 断片的に蘇る記憶、怒りに任せてローセン兵に剣を振るった。飛び散る血も悲鳴も罵る声も無視をした。

 その前だ、ヨウラが私を庇って弓矢を受けた。あの時、何も出来なかった。ただ見ていた。ヨウラは何か言ってた。無数の矢に貫かれながら、ヨウラは……。


「生きろ、って……笑って、そう、言った」


 思い出した彼女は、あんな痛々しい姿になりながらも、最期に笑みを浮かべていた。あれは、ヨウラの優しさと意地だ。


「そか……ほんと……らしいな」


 ジィンの僅かに震える声に、シイナはまた涙が零れた。

 抱き着いているから、ジィンの表情はわからない。でも、最期の最期まで、ヨウラはヨウラだった。強く優しく逞しく、生きる術を教えてくれた彼女はもういない。

 だから、こんなに涙が出るんだろう。



 噛み締め堪えるように涙を流すシイナとジィンを、少し離れたところからシスとキサギが見守っていた。


「結局、救い出せたのは二人だけだったね」


「……あぁ」


 今回のこの事態を後の歴史家はなんと書き綴るだろうか。


 ローズトライセン王国、通称ローセンは“ヒト”至上国家だ。それでも幼い子供を“リィ”だからといって直接的に命を奪うのは反発を呼ぶ。故にU2地区に送るという作業が延々と続いていた。

 U2地区にいるのは悪魔と罪人のみ。ならば我らの聖なる剣によって神の国へと送ろう、などという馬鹿げた思想を持った一部の軍人達によるU2地区強襲の情報を掴んだのが、隣国リアヌス共和国の特殊機動部隊BF(ブラックフォース)だった。

 リアヌスは“ヒト”と“リィ”が共存する国だ。以前からローセンのやり方には苦言を呈してきた。が、自国のことには口出し無用と相手にされず今日に至る。

 “リィ”達が虐殺されるのを見て見ぬふりは出来ぬと判断したリアヌス軍上層部は此度のローセン兵の暴挙に紛れ、U2地区の“リィ”達を助け出すという作戦を実行した。それはあくまでローセン兵の暴挙に紛れるというのが第一だった。表立って軍を動かすことは戦争と直結する事態に陥るからだ。しかし、そうなると動かせる人員は限られる。


「予想以上に、U2地区は広大だったな」


 シスの溜め息混じりの言葉にキサギも頷く。


「もとより正確な地図があったわけじゃないからね、全体像を掴むには相当な時間を要するだろうね」


 そうだとしても、リアヌス軍が誇る精鋭部隊を二部隊投入して、助けた人間がたった二人というのはなんとも情けない限りである。


 動き出した船。

 舵はリアヌス共和国へ。

 リアヌスへ着く頃には、U2地区より助け出された二人の涙が乾くことを願う。

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