最終回
気が付くと利成の目の前には黒い鉄棒が立ちふさがっていた。
「ここは…」
『利成は辺りを見回した』
『しかし何も見つからなかった』
鉄の棒に囲まれた冷ややかな世界。利成はようやく己れの境遇を悟った。彼は警官によって牢屋に放りこまれたのであった。
「うわあああ…」
利成は勇者のくせにどうしていいかわからずにただ叫んだ。何故自分がこんな目に会うのか本当にわからなかった。己れを勇者だと思っている彼は、全く罪の意識を感じていなかったのである。
「コ、コンティニューはできないのかよ…」
まだ今の状況をゲームだと認識している彼はコンティニュー、いわゆるやり直しが出来ないことを悟って悲嘆にくれた。
利成が牢屋に入って嘆いている頃、世間では『ファイナルドラゴン3』を巡って一つの騒動が勃発していた。累計500万本近い売り上げを記録してホクホク顔だったトライアングル社ではあったが、翌日には100万件近い苦情の電話やFAXが殺到してその表情を曇らせた。途中までゲームを進めると、画像が停止して操作不能になってしまうトラブルが購入者のあちらこちらから発生したらしい。売った数が数だけに動作異常の発生は大きな問題として取り上げられることとなった。販売数で一世を風靡したものの、トラブルでまたも社会を騒がせることとなってしまったのだ。
しかも肝心のゲーム内容も薄っぺらなストーリーに美麗なグラフィックを載せただけであり、運よく最後までプレイできた人達も腹を立てて酷評することとなった。ゲーム誌もこぞってトライアングル社批判を展開した。本社ビルには、毎日責任を追求するオタク系の抗議運動が展開され、警官が駆り出される始末だった。この一件で『痛恨の一撃』を受けたトライアングル社は一気に世間の株を落とし、衰退していった。
「ああコンティニューができれば…」
と社長が言ったとか言わないとか…。
そんな『ファイナルドラゴン3』の事情も露知らず、川口利成は牢屋で一つの結論に達した。
「まだゲームオーバーはしていない筈だ。なぜなら俺は生きている!多分、何らかの方法でこの牢屋から脱出できるのだ!」
利成は落ち着いて考えてみることにより、自分がコンティニューどころかまだゲームオーバーになっていないことを悟った。その境地に至ってからの利成はとにかく牢屋内のいたる所を探ってみることに集中した。いつか『ファイナルドラゴン3』をプレイすることだけを夢見ながら…。しかしその作業は
『利成は自分の足元を調べた』
『しかし何も見つからなかった』
『利成は自分の目の前を調べた』
『しかし何も見つからなかった』
の繰り返しだった。流石の利成も気が滅入りそうになったが、何せゲームである以上、彼が諦めることはなかった。彼は四六時中牢屋の中を調べまくった。
利成は牢屋の脱出方法が見つからないことを心配する必要は全くない。なぜなら放っておいても、もう少し時が経てば自動的にイベントが起こって、勇者利成の活躍の舞台は『精神病院』に変わるのである。
この果てしなく長いゲーム『利成クエスト』は『ファイナルドラゴン3』を手に入れ、プレイするまで彼の中では終わらない。辞めたければ死んで、本当のゲームオーバーを迎えるしかないのだ。当然、コンティニューなどない。
しかし利成の性格からしてもゲームを放棄する筈がなかった。彼は永久に楽しむことが出来ながら、それと同時に永久に苦しむことになるのだ。本当のクリア条件である『自分探し』の冒険は当分の間終わりそうにない…。
ちと恥ずかしい作品です…。よくこんなの書いたなぁ…。何だか最近の某事件に通じるような感じもあって、怖いですな。