大問1:『友情、死してなお』
「長かった……本当に長かったのう」
『儂』は自らの城、自らの屋敷の見慣れた天井の木目。それらを一つ一つ、感慨深く眺めていた。
疲れていた。自らの人生に。戦争と、政争で覆い尽くされた人生であった。
もう最愛の妻も、父も、母も、姉も、弟も、息子もいない。皆『儂』よりも先に命を散らしてしまったのだ。
二人の義父も親戚も、とうに鬼籍に入っていた。
死ぬ事に恐れはない。むしろ、家族たちとの再会を心待ちにすらしている自分がいる。
ただ一つ、気になるのは孫の事。
『儂』には二人の孫がいる。ついこの前の話になるがその内の一人が……あ奴、危うく我が家を潰し掛けおった。功名心にかられたか、自らの境遇に不満を覚えていたのか――恐らく、後者であろう。
だが騒動を起こした甲斐もあって、あ奴も今では殿様だ。これに満足して、これ以上何も起こらぬ事を願うよ。
おっと、もう一つ。決して忘れてはならぬ事があった。我が人生で出会った『友』の事。
温泉を紹介したり、子供の病気を一緒に心配したり、鷹を交換したり、一緒に戦をした事もあったのう。
『友』は厳格、誠実で信のおける奴ではあった。ただ、少しだけ気配りが下手であったのが不味かったな。周りからあまり良く思われなかった様だ。
元々『儂』と『友』は遠縁らしかったし、家も近所だったので直ぐに打ち解け合った。
だが『儂』は『節目の決戦』で……『友』ではなく我が主君に味方した。
家族は『友』に、『儂』は主君に……それぞれ義理を果たした。そして『友』は負け、処刑された。
「おい、あれの警護は厳重にしておけよ。比喩でなく、何人たりとも入れてはならぬ」
「ははっ、天地神明に誓って!」
「あれには、主君から授かった短刀が入っている。絶対に中を見られるな」
そんなものはない。これが儂の最後の策。こう言っておけば、誰も中を暴くまい。
これで良い。『友』は大切だが、今の『儂』の立場では、『友』からの友情は決して明かせない。
さりとて、焼きもせぬし捨てる事もせぬ。それが友情と言うものよ。例え、その相手が既に死んで、儂ももうすぐ死ぬとしても……。『儂』と『友』の友情だけは永遠である。
何百年か後に、今の政権が打倒された後、もしかしたらこの封は暴かれるのかもしれん。その時は胸を張って『友』との関係を明かせる世の中に、なっておると良いの……。
おっと、もう浅い呼吸しか出来ぬわ。そろそろお迎えが来た様だ。
弟はまた、笑って迎えてくれるかの。嫁には節制がなっていないと怒られるかのう。はは……。
父上とまた、囲碁でもしよう。ふっ、恐らく『儂』が勝つがな。義父とは槍の稽古になるか。こちらは、勝てるわけもないな。
子らとも遊んでやらねば、さりとてまずは……。
『友』と他愛もない会話を交そう。きっと、ぶっきらぼうに応じてくれるであろう……。
今逝くぞ、『友』よ。
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問1:『友』とは誰の事か?
問2:『節目の決戦』の名前は?
問3:『儂』とは誰の事か?