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俺のせいで空気が最悪です

 長~いヤスデじいちゃんの話を、簡単にまとめると。


 このアエオンの町は何代も昔の生存者たちが、捨てられた建造物を再利用して作った町である。

 治安の不安は町の有志で作った自警団と、幾人かの用心棒を雇うことで解消していた。


 そんな町に、5年前位に遣いの者がやって来た。

 そいつが言うには、この国は現在『貴族』という有力者達によって復興の最中にある。

 お前達の町人は国民の義務として税を納めるか、奴隷を差し出せ。

 そうすれば貴族の庇護下にあるという証明として、この町に衛兵を派遣してやる。

 

 当然突っぱねた。

 当たり前の話だ。

 アエオンの町の治安や防備は現在十分足りている。

 そこに、聞いた事も無い貴族とやらが、ご都合一辺倒な主張をしてきた。

 5年前のヤスデじいちゃんも、遣いの者に「そういうの間に合ってます」と言って追い返したらしい。


 それからしばらく経つと、町に少々変化がおこった。

 町で雇っていた用心棒達が、一人、また一人と失踪したのだ。


 そうして、一年経つ頃には、ほとんどの用心棒がいなくなっていた。


 時を同じくして、町に何度か難民達がなだれ込んでくることがあった。

 彼らは口々に、住んでいた場所を『白場庭ファミリー』を名乗る集団に襲撃されたと話した。


 薄くなっていく町の防備、難民増加による治安の悪化や食料問題、そして、いつかこの町にもファミリーの襲撃があるのではという不安や焦燥感。


 そのまま4年の月日が経ち、自警団も住民達も疲れきっていたこのタイミングで、町の周辺で不審な集団の目撃情報が頻発し始める。

 

 そんな最中での、今回のヤスデじいちゃん失踪事件である。

 …そりゃあ大騒ぎになるだろうし、俺も警戒されるワケだわ。


「…で、俺は何でその貴族だかファミリーだかと勘違いされたんでしょうか?」


「ああ…、前に聞いた貴族の奴らの名前ってのが、妙に長ったらしかったんでな。同類かと思った。」


「襲撃を受けた元・難民の中に、襲撃者が『俺は白場庭ファミリーの○○だ!』とか名乗ってたと報告があったもので…。」


 名字があるような長い名前は貴族かファミリー関係という認識だったのか。

 …う〜ん、面倒ごとは御免だし、毎回説明するのも面倒だなぁ。

 今後はサイゴーとだけ名乗っとくか。


 ここで、チョウチョさんが台所?から食事を運んでくる。

 俺は有り難く頂戴することにし、四人で雑談をしながら食事となった。


 この『ヤスデ修理店』は、持ち込まれた機械などを修理したり、前時代の品物を発掘し、修理して販売したりする店なんだそうだ。


 ノミはヤスデじいちゃんの孫で、母親であるホタルさんは数年前に病気で他界。

 父親は町の用心棒の一人だったらしいが、例の失踪事件で行方不明らしい。


 チョウチョさんは三度目の難民受け入れの時に町にやって来たそうで、前に住んでいた場所で少し修理の技術を学んでいたそうだ。

 今は勉強と仕事を兼ねて、じいちゃんに弟子入りという形で、住み込みで雇ってもらっていると話した。


「…あれ?そういえば、じいさんって何であんな崖で事故ってたの?」


「…まあお前にならいいか。あの崖下にビル群があったろ?あそこは前時代の品物が結構残ってる穴場なんだよ。今回、俺はちょっとした不注意で崖下に落ちちまったけど、本来はあの近くに下まで降りられるルートがあるんだ。」


 崖下への道はやっぱりあったのか。

 …それにしても…。


「…じいさん、それにしたって化物のうろつく中、一人であんな場所に行くのは危険なんじゃないか?」


 俺の発言に、チョウチョが答える。


「…ノブさん。店長はこう見えて、昔は腕利きの用心棒だったんですよ。今では修理者としても町に欠かせない存在なのですが、件の用心棒失踪事件以来は町の防備や治安維持にも手を貸している、この町の有力者なんです。」


 …このチャラいじいちゃんが?

 あ、でも確かにステータスはアホみたいに高かったし、ケツ猫を狩る手際はすごい鮮やかだったな。


「…いや、ノブの言う通りかもな。俺ももうジジイだ。実際、よそ見しててあんな場所でのたれ死にしそうになったし。」


「そんな!店長、今回のはちょっとした事故じゃないですか!」


「…いいってチョウチョ、全部マジだから。俺もそろそろ引退かもな…。」


 …なんだ、また地雷を踏んだのか俺は…。


「まぁ、年には勝てなかったってこったな。ドジって足も挫いちまった。治るまではカブにも乗れない。…これを機会に修理屋だけに専念するのも良いかもな。」


「店長!そんな弱気にならないで下さいよぅ…。」


「…引き際を誤って死ぬなんざ馬鹿のすることだ。…俺はそこまで馬鹿じゃあない。」


「…ま、まあじいさんもそう焦ることは無いだろう?…ってかいつものじいさんの口調に慣れてきた所だったから違和感が半端ねぇ。」


 俺にはシリアス展開は短時間が限界だったようです…。

 

「…客の前で話すことじゃ無かったかもな。…俺はもう寝るわ。ノブはさっきの部屋を自由に使ってくれ。ノミと相部屋だがな。」


 そう言うとヤスデじいちゃんは奥の部屋へ消えて行った。

 …重苦しい空気が部屋を包む。


「…なんで…。」


 口を開いたのは、ノミだった。


「なんであんな、変な事言うんだよ!おじいちゃんは…おじいちゃんはチャラいけど、強くてカッコいいんだぞ!!それに…、町にはおじいちゃんの探してくる色んな物資が必要なんだよ!それなのに…おじさんが変なこと言うから!!」


 そう言って立ち上がったノミは、店先へ走っていってしまった。


「ノミ君!…すいません、ノブさん…。ノミ君は本当に店長のことを尊敬しているんです。だから店長が柄にも無く弱気になってしまったのが、ショックだったんですよ、きっと…。」


 席を立ちながら、チョウチョさんが俺に言った。


「…ノミ君は、今夜は私の部屋で寝かせます。ノブさんはどうぞお気になさらずに、部屋で休んで下さい。」


 彼女はそう言って頭を下げ、ノミを追うように店先へ行ってしまった。


 …まいったなぁ…。

 知らなかったとはいえ、俺が余計な事を言ったせいで空気が最悪だ…。

 それに…いつの間にか俺の呼び名がノブで固定されちまった…。


 とはいえ、俺にできることなんてたかが知れているし…。


「…まさか、200年後の世界で、人間関係に悩まされるとはなぁ…。」


 俺は無力感に襲われながら、あてがわれた部屋へ足を運ぶのだった。

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