眠れない夜
忘れ去られていた過去の遺物が、目を覚ます。
古めかしくも新しいソレは、圧倒的な興奮と快楽を俺に供給し続ける。
…手が止まらない。
…もっと!早く続きを!!
ああ…こんな感覚、すっかり忘れてしまっていた。
…天国は、こんな所にあったんだなぁ…。
『お客様方、夕食の準備が整いました。』
「…も、もうちょっと!とりあえず、この巻だけ最後まで読ませてくれ!」
「すみません!こっちも延長お願いします!」
「すまんがこっちも頼む。…ところで明照さん、やっぱ夕食はビフテキだったりするんですか?」
いや、招待されてる身で主人を待たせるとか、失礼なのは重々承知してるよ?
でも仕方がないんだって!!
俺たちが年甲斐もなく駄々をこねていると、しびれを切らしたのかドクターが部屋に入ってきた。
『西郷氏、まだぁ~?…まぁ、夢中になっちゃうのも理解できるけど。…大丈夫、マンガは逃げないし、夜はまだまだこれからだよ?』
呆れたようにそう言うドクターだが、表情はどこか嬉しそうにも見える。
「おお、スマンスマン…。それにしても、本当に凄い蔵書の量だなぁ。下手な図書館より多いよな、コレ。」
「しかも、全て漫画というな。ジャンルも関係なくカバーしてるのには恐れ入った。」
「こっちの少女マンガってのも最高ですが、いま読んでるロボットモノとか胸が熱くなってヤバいです!!」
…胸無いじゃんオマエ。
とは口に出さないのが大人のマナー。
『…チョウチョ氏、オパーイがどうしましたと?』
「うわキモッ。」
『オウフッwww我々のwww業界ではwwwご褒美ですwww』
…ドクターが大変残念な人物だったのはさておき。
しばらくの歓談の後、俺たちが案内された部屋は「コレクションルーム」だった。
…理解していただけるだろうか?
ずーーーっとリアルタイムで読み続けていたマンガが、「最終巻まで」揃っているこの状況を。
「…まさか、あの「バーサーク」が和解ENDとはな…。示談金で済ますとか、散々引っ張っておいてあのオチか…。」
『まぁアレはアレで良い最後じゃないかな?そもそもちゃんと完結した事が驚きだよ。』
そういえば、ちょいちょいマンガのタイトルが違ったり、登場人物の名前が違ったりするのに「?」ってなったけど、ココってパラレルワールドなんだったな。
…すっかり忘れてたね、その設定。
ほとんど俺のいた世界と変わらないから、失念しがちだし。
…まてよ?って事はあの終わり方も、俺のいた世界の方とは違ったエンディングの可能性もあるのか?
…残念ながら、確かめようも無いんだけどな。
…ぐぬぬっ…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…オイオイ…マジかよ…。」
だだっ広い食卓の上には、香しい芳香を放つ豪華な食事が所狭しと並べられている。
…だが、俺の視線は「ある料理」に釘付けになっていた。
それは、あり得ない程のボリューム感と、異常なまでの存在感を放ちながら、食卓の中央に鎮座していた。
初めて見た。
…いや、生涯見ることは叶わないだろうと、諦めていた。
そんな夢の料理が、そこにあった。
「『マンガ肉』だ…。」
「マンガ肉…マンガ肉だとっ!?…うわっ!!マジだ!!」
「うわぁ~、おっきいお肉ですねぇ。コレ何の肉なんですか?」
「…チョウチョ、お前…この料理のヤバさが理解できないのか。…そうか、それは…残念だな。」
「…え、なんでそんな不憫な子を見るような目で私を見るんですか?」
…俺は今、猛烈に感動していた。
数々のマンガの中で、その食事シーンを彩ってきたあのマンガ肉。
それを口にすることが叶うとは。
「ドクター…いや、須藤ちゃん。本当に、本当にありがとう…。」
『気に入ってもらえたみたいで嬉しいよ。俺もコレを再現するのには相当苦労したからね!』
こんがりと焼き目のついた巨大な肉からは、これまた巨大な骨がわざとらしく顔をのぞかせている。
ホラ!ここ掴みやすいよ!両手で持って食べてごらん!?…とでも言わんばかりだな。
俺達は足早に椅子へと駆け寄り、腰を下ろした。
待ってろよマンガ肉、今食ってやるからな…!!
『みんな揃ったかな?…それじゃあ、素晴らしい友人たちとの出会いに!』
『「「「乾杯っ!!」」」』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ドクター須藤との晩餐会は、それはもう楽しい一時だった。
用意された料理は、イヨマンテの手料理のような未知の美食というわけではなかったが、十分に豪華で美味い。
なんつーか、チェーン店の居酒屋とかで出てきそうな味だった。
だが、ドクターも苦心したと言っていただけあって、マンガ肉は凄かった。
外側の皮はパリッとした触感なのに、口に咥えて引っ張るとちゃんと伸びる!
スゲェ再現率だった。
…味はわりと普通だったのが、残念っちゃあ残念だったか。
いや、不味くはないんだけどね?
ただ、多種多様な料理と、途中から出された果物風味のチューハイみたいな酒もあいまって、俺達は最初の出会いも忘れて楽しい時間を共にした。
『…そんなワケで、若い頃は研究にしか興味が無かったもんで、「こっち」に目覚めたのは世の中がこんな有様になってからだったんだよねぇ。』
「ああ…そりゃまた難儀だったな。そりゃあこんな世の中じゃ、みんな生きるのに必死で「こっち」の趣味なんてなかなか理解してもらえんだろうしなぁ…。」
「…え!?ってゆーか、それじゃああのコレクションって、世界がこんなになっちまった後に集めたもんなのか!?」
『よくぞ聞いてくれた西郷氏!…あれだけの量を集めるのは本当に大変だったんだ。ま、幸いなことに時間だけはバカみたいにあったからな。マンガやアニメのDVDを集めるために日本中にロボットを派遣してコツコツと集めたんだよ。この収集ロボットはその特性から名前をハーヴェ…。』
そうか…そう言われるとちょっと納得だな。
ドクターが時々ネットスラングが出るのは、アレだな。
「覚えたての言葉を使ってみたい病」。
…俺もネット初心者の頃とか、日常会話でうっかり2ちゃ○用語使いそうになったりしたっけなぁ。
『…そうだ西郷氏!是非西郷氏にも見てもらいたいアニメがあるんだ!全12話だから朝までには見終わるから、今夜はみんなで鑑賞会としゃれこもうじゃないか!』
「うぇ!?う、う~ん…?…俺見たことある作品なんじゃないかなぁ?」
『いや、これってば日本がキマイラでこんなになる直前に作られていた作品だから、一般には未公開のままだった作品なんだよ!これがまた埋もれさせておくには惜しい逸品でね!肉じゃがの精霊が…。』
…オイオイ、マジか…。
良い感じに酔いも回ってきて、正直眠いんだが…。
なんだか断れる雰囲気じゃ無いぞ…。
…ここはそれとなくみんなに目配せして、なんとかお開きの方向に…。
「何ですかソレ!?超面白そうじゃないですか!!早速見ましょう!」
「う~ん…オッサンの俺には正直きびしそうな話だが…ま、そこまで熱弁するのなら見させてもらうか。」
…おいィ!
何流されてんだお前等っ!?
それにチラッと聞いただけでも相当くだらなそうな内容のアニメだったぞ!?
チョウチョの趣味が改めて分からなくなってきたぞ…!
『よし!そうと決まればお菓子を持ってシアタールームにGOだよ!さあさあ西郷氏も早く!』
「おっ、おう…。」
「…。」
『…。』
『…ウフフ。そちらのお二人、よろしかったら充電とかなさいます?』
「…いえ、私は充電不要ですので、お気になさらず。」
『あら…そう。…そちらの方はいかが?』
『ワシもいらん。それよりワシにも酒を飲ませろ!』
『…あら貴方、刀の姿なのにお酒が飲めるの?だったら私がお酌をしてさしあげるわ。』
『…ほほう、良い心がけだ!見たところ、お主も飲み食いできるタイプじゃろう?一杯付き合え。』
『ウフフ…それでは、一杯だけ…。』
「…。」
リアルの忙しさとドクターの人格のせいで、全然話が進まない…orz




