訴訟待った無し
百○だか黄金勇者みたいなド派手な金色のアンドロイド、ゴルドの案内のもと、俺はDr.ストーが待つという闘技場へと足を踏み入れた。
ここは確か過去には多目的アリーナとして使われていた建物なんだが、Dr.ストーが改築させたのか内部は白を基調としたシンプルなものに変わっていた。
なんというか…清潔な病院みたいな雰囲気だ。
玄関ホールを抜け、少し歩いて見えてきたのは…。
「…ベルトコンベアー?…工場なのか、ここは?」
『…工場部分はほんの一部です。この建物はロボット生産工場と格納庫、そしてDr.ストーの研究施設兼居住区などを内包した複合施設です。』
立ち止まった俺に気付き、ゴルドが説明する。
あ、じゃあ闘技場って名称は、本当に外観からそう呼ばれてるだけなのね。
…ちょっとホッとしたよ、俺。
…突然『腕試しだ!』とか言って、ゴリッゴリの戦闘ロボと戦わされる展開も考えてたからね。
生産ラインを次々と機械の手や足が流れていく。
流れてきたパーツを組み立てていくのも、また別のロボットだ。
そして組みあがった機体を、無人のフォークリフトみたいなロボが何処かへと運んでいく。
「…作ってるのは、外にいる兵隊ロボか?…さっきも思ったが、こんなに戦力を集めてドクターは戦争でも始める気なのか?」
『…あれらは、あくまで自衛の為の戦力です。』
…いやいや、過剰防衛でしょ、どう考えても。
工場区を抜け、運搬路と思われる長い通路を通り抜けると、辺りの雰囲気に若干の変化があった。
…何て言うか…生活感があるっていうのか?
通路の奥からなのか、なにやら楽しげな声も聞こえてくる。
しばらくゴルドについて歩いていくと、近未来的な大きな扉が立ち塞がった。
…コレ、アレだわ。
ラクエンの地下で見たのと同じタイプの扉。
…となると、いよいよここからが本丸か?
ゴルドが右手を上げると、巨大な扉は音も無く斜めにスライドして開いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…なんじゃこりゃ…。」
扉の向こうで待ち受けていたものは、実にリアクションに困る光景だった。
何かの店と思われる建物の前で、凶悪な面構えをしたアンドロイドが客引きの声をあげている。
…今日は特売日で、反重力トマトがお買い得だそうだ。
…八百屋なの?
…じゃあその手に持った丸くて黒光りしているのは、鉄球じゃ無くてトマトなの?
その隣では、ガン○ンクみたいなキャタピラ付きのロボが、八本足の多脚型ロボと談笑している。
…店員にトマトをすすめられて、今夜はパスタでも作ろうかしらとか言ってる。
…つーかお前、パスタ食うの?
別の方向に目をやれば、まるで『鉄の城』といった印象のロボットが、同タイプと思われる女性型のロボと仲むつまじく手をつないでデート中のご様子。
…え?デートすんのお前等?
…俺ですらまともにしたこと無いのに?
極め付けに、あっけにとられている俺の足元を、猫型のロボットが円盤型掃除ロボットを追い掛けて走り抜けていった。
…ほのぼのか。
「…ダメだこりゃ、意味がわからない。…ゴルドさん説明して。」
『…ここは居住区です。ドクターが作ったロボットやサイボーグ達が平穏に暮らせるようにと、西暦2000年前後の住環境をモデルに作られています。』
西暦2000年。
どうりで妙に馴染みがあるのに、違和感がバリバリなワケだわ。
俺がまだ子供の頃に見た町の風景に酷似してんだな。
…人がロボットに置き換わっている以外。
早々とツッコミを放棄した俺は、ゴルドと共に商店街のような町並みを歩く。
「…えらく賑やかだな。…本当にこの先にドクターがいるのか?」
『ドクターは孤独な方ですが、好き好んで孤独なわけではありません。…ここはドクターの心を癒す、箱庭でもあるのです。』
…なんつーか、意外だな。
ドクターなんていうから、偏屈なじいちゃんを想像してたんだけれど。
…いや、確かイヨマンテも偏屈なじいさんとか言っていた。
そうなると、ひねくれ者特有の変なこだわりと解釈した方がシックリくるか?
俺がそんな事を考えていると、ゴルドの足が止まった。
『こちらがドクターの部屋です。』
唐突に示されたソレに、俺は思わず目を奪われた。
ブロック塀。
木造。
トタン屋根。
…ワオ…。
…あばら屋じゃねーか…。
…つーか、部屋じゃ無ぇじゃねーか。
硬直したままの俺をほったらかしたまま、ゴルドは玄関の呼び鈴を押す。
…ピンポーン。
『ゴルドG13です。』
『…ご苦労。通しなさい。』
インターホンから返ってきた声は、何故か若い女性のものだった。
疑問に思っている間も無く、昭和の香りが漂う引き戸が自動で開く。
『どうぞお入りください。』
「…?お前は入らないのか?」
『私の役目は案内する所までです。ここからは別の者が役目を引き継ぎます。』
ああ、さいですか。
さっきの女性が引き継いでくれるのかしらん。
俺は微動だにしないゴルドを道端に残したまま、恐る恐る敷居を跨いだ。
「…ごめんくださーい…。」
玄関には男性物の靴と女性物の靴が数個並んでいる。
…それよりも俺の目を引いたのは、靴箱の上に置かれた木彫りの熊とデカい将棋のコマだった。
…マジで徹底してるなぁ…。
パタパタとスリッパ特有の足音をたてて、一人の女性が姿を現す。
…ビックリするような美人さんだ。
…違う意味でもビックリしたけどな。
まるで真冬に着るような、ファーをあしらったケープ尽きのコートと、同じく毛皮だかファー製の、まるでロシアの人がかぶるような帽子。
腰までのびたシルバーブロンドの髪。
…長~い睫毛に、切れ長の目。
…服の色が灰色だったり、細部が微妙に違ったりしてはいるが、これは…。
『いらっしゃいませ、お客様。私は彼のお世話係、ヒューマノイドの明照です。』
【明照】
ヒューマノイド
OS/Galaxy 666
耐久/40
力/ 35
動力/∞
知力/40
敏捷/30
アプリケーション/
『時刻表』
『ジョークBOX』
はいアウト。
完全にアウトだコレ。
あのドクター、一番パクっちゃいけないキャラをパクりやがった。
…あの大先生の事だ。
盗用だ著作権侵害だ大騒ぎになるぞ…。
…あ、いや、まてよ?
著作権ってこんな時代まで続いてるのか?
…そもそも200年も経ってたら、大先生だってもう…。
…それこそ、機械の体でも手に入れてなければの話だが。
「俺はサイゴーといいます。ドクターストーにお会いしたくて来ました。」
『彼なら奥の部屋で待っているわ。…フフフ、貴方と話した後の彼、まるで子供みたいなはしゃぎ様だったのよ?』
…面会前からハードルをあげんで下さい。
…俺はただの、ごくごく一般的なオタク青年ですから。
メーテ…明照さんに連れられて、フスマで仕切られた部屋の前へと進む。
…ホイホイついていったらネジにされたりしないだろうな…?
『恋二、お客様をお連れしたわよ。』
『…来たか。』
フスマの向こうから、前にも聞いたドクターの声が聞こえた。
『…サイゴーと言ったか?すまんが最後に確認させてくれ。ワシが今から言う単語で、思いついた言葉を言うんじゃ。』
「…え?はぁ、わかりました。」
なんじゃそりゃ?連想ゲームみたいなモンか?
『専用。』
…あ、そういう事ね。
理解しました。
「…赤。」
『カブトムシ。』
「…え~と、モグモグフヨード。」
『ヘルメット。』
「…母さん?」
『…炎の匂い。』
「むせる。」
『…グスッ…もう、良いか。疑ってすまんかったな。中に入ってくれ。』
…えっ!?なんか泣いてない!?
…何で?
引いている俺をよそに、明照さんがフスマを開いた。
目に飛び込んできたその部屋は、俺のいた時代にはありふれた八畳ほどの居間だった。
テレビが何故かブラウン管だったりと、妙なこだわりは健在のようだ。
…その居間の中央に、こたつに入った異常な物体が鎮座している。
座ったままの姿でも2mはあろうかという、大型のロボット。
金属光沢を放つ黒と赤を基調にした色合いが、レトロな居間の雰囲気を見事に台無しにしている。
そのロボットの、本来なら頭が存在しているはずの部分に、高さ1m程の円筒形の水槽が乗っている。
…水槽の中に浮かんだ老人の生首が、俺の姿を見据えて口を開いた。
『…良く来てくれたな、サイゴー氏。…いや…、我が友よ。』
【須藤 恋二】
(Dr.ストー)
機械化人間
217歳
耐久/ 65
力/ 30
動力/ ∞
知力/110
敏捷/ 15
運/ 30
特殊:
(状態:興奮(軽度))
(遺伝子異常有り)




